近年は受験ブームが盛り上がっており、それに伴い「基礎学力」という言葉をよく耳にするようになりました。
本記事をご覧いただいている保護者の皆様もおそらく一度はどこかで耳にした事があるのではないでしょうか。
「言葉は知っているけど、具体的にどのような意味を持つのか分からない」という疑問に本記事ではお答えします。
基礎学力とは何か
まずは本題の「基礎学力とは何か?」についてです。
基礎学力とは読んで字の如く「基礎的な学力」です。
具体的には小学校のうちに身に着けておくべき、将来の学びに活かすことのできる能力です。
知識=学力とは少し違う
学校や学習塾で学ぶものとして最もイメージしやすい学力は「持っている知識の量」です。
知識を問う問題は正誤が明確で具体的な点数となるため、成績が上がったという実感が得やすい事が特徴です。
しかし本記事で扱う基礎学力は知識の量を問いません。
基礎学力を身に付けるという事は知識を蓄える以前の段階であるという事を先にお伝えしておきます。
深く考えて表現する事が大切
それでは知識を身に付ける事よりも前の段階である基礎学力とは何でしょうか。
学習の最たるものは「一つひとつの物事に対して深く考える」事にあります。
分かりやすい例として歴史が挙げられます。
単なる知識の側面からは「1192年に鎌倉幕府が成立した」という事実の確認に過ぎませんが、基礎学力の側面から見てみると「どのような経緯で平安時代が終結したのか」という事について考える事になります。
ここまで堅苦しくなくても「源平合戦の原因は何かな?」など背景を追求する中で先の知識を得るという考え方になります。
つまり知識は後からついてくる。
まずは背景やストーリーを考え込むという事が基礎学力の考え方です。
深い知識を身につける基礎学力と文字を追うだけの暗記力は別物である事を押さえておきましょう。
つまり基礎学力はただ一つ
先程のものを要約すると「基礎学力とは考え抜く力である」という事です。
もう少し掘り下げてみましょう。
教科書に書いてある事を丸暗記するのではなく、教科書に書いてある事に対して「なぜそうなるのだろうか」など考えを深める事のできる能力が基礎学力であるという事です。
本記事をご覧の保護者の皆様の中には「それじゃあ、応用力はどうなるの?」と疑問を抱かれる方も居られる事でしょう。
応用力に対する考え方に関しては次に解説しております。
応用力は必要なのか
これまでは学習の原点である基礎学力に着目して話を進めてきました。
それに付随するものとして応用力に関しても触れておきたいと思います。
結論から申し上げると、基礎学力と応用力は表裏一体のものであり、特別身につけようとする必要はありません。
応用力は基礎学力の上に成り立つもの
さて、本記事をご覧の皆様は「応用」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
多くの方は参考書に載っている応用問題を連想されるかと思います。
応用問題では、学習したことよりもハイレベルな問題が出題されます。
しかし参考書の解説を読んだ事のある保護者の皆様はお分かりいただけると思いますが、解き方に関しては実はシンプルで複数の知識を組み合わせただけの問題が殆どです。
応用問題の最も分かりやすい例で説明すると図形の問題です。
例えば正方形の中に四分円が描かれており、その四分円の面積を除く正方形の面積を求める問題が挙げられます。
この問題が応用問題として扱われる単元は面積です。
正方形の面積を求める式と円の面積を求める式が基礎的な知識だとすると、四分円が「円の面積÷4」の式で求められる事と正方形の面積から四分円の面積を引き算することで解答にたどり着く事ができるという事が応用力です。
これらは問題を観察する事で、解法を導き出す事が可能です。
基本的な考え方を組み合わせる力が応用力
先述の例では新しい公式等を一切使っていません。
面積の公式と割り算、そして引き算のみで、面積の単元を終える頃にはすべて身についている知識ばかりです。
問題が複雑だとしても、公式や知識にとらわれずに、覚えた知識を全て使って問題に取り組もうという姿勢こそが応用力です。
つまり基礎学力を身につけることが出来ていれば、応用力も自然と身につける事ができるという考え方です。
もし応用力を別の言葉で言い換えるのであれば、観察力と言えるでしょう。
「これまで学んだ知識のどれを使うことができるだろうか」と問題を見ながら考える事自体が応用力です。
「気づき」がすべてを変える
とは言えどれだけ時間をかけて問題を考えようとも、適切な解法にたどり着けない子どもも多く居ます。
このような場合には保護者の方の適切な手助けが必要となってきます。
学習は「気づき」によって進んでゆくので、知識を持っている大人が答えにたどり着くまでの足場掛けを行う必要があります。
この際に注意していただきたい事は「答えを教える訳ではない」という事です。
大人は子どもに悩んでほしくないという思いがあるので、つい解答やそれに近いものを伝えてしまいがちですが、そうすることで子どもは「わからなかったら大人や参考書を頼れば良い」と学習してしまいます。
それ自体は特別悪いことではありませんが、行き詰まったらすぐに解法を参照するという考え方は長期的に見た場合、学習の妨げになります。
中学校で学習する三平方の定理を例に考えてみましょう。
鋭角が30°、鈍角が60°で残るもう一つの角が直角である三角形の辺の長さの比は短い順に1:√3:2です。
中学生時代、これを見たままの形で覚えた方も少なくないでしょう。
私もその中のひとりです。
中学生の皆さんがよく間違えるのは√3と2の辺の位置を逆さまに覚えているパターンです。
「√3と2ってどっちが長いんだっけ…?」と数字に惑わされる方が多いようです。
答えを教えたくなりますが、ここは少し我慢しましょう。
2の辺が長いのですが、保護者はどのように説明すれば良いのでしょうか。
2は√4と表すことが出来ます。
そのため√3<√4と書き表すことができ、2の比の辺が長いという事が可能です。
平方根の知識を使うことができると気づいていれば、試験本番にど忘れしてしまっても気づきで切り抜けることが可能です。
丸暗記パターンだと考えることもなく、忘れてしまった時の対処法にも気づけないまま解答が白紙となる結果となります。
上記のパターンで子どもに手助けをするのであれば「2をルートの形にできないの?」と一声かけるだけでも十分でしょう。
考える段階をパスする習慣が身についてしまうと、俗に言う「暗記だけは得意な人」になってしまいます。
基礎学力が身についていないので応用力も当然なし。
持っているのは知識のみという状態です。
知識は勉強しているという実感を最も得やすいため、暗記で満足してしまいがちです。
学びの根底は「考える」事にあるので、その原理を見失わないようにしましょう。
気づきは考える過程の中でしか得られません。
基礎学力は保護者も関わらないと身につかない
先述のように、子どもの学習には保護者の方や塾の講師、教員などの手助けが不可欠です。
教員や塾の講師は多くの生徒を抱えており、また多くの場合は知識を与えることを第一としている為、細かなケアまでは不可能です。
最も気づきのきっかけを与えやすいのは保護者なので、家庭学習において保護者のサポートが基礎学力の会得を左右すると言っても過言ではありません。
保護者は子どもの能力を引き出す存在である
保護者は最も多くの時間を子どもと過ごします。
その時間の全てを少しの工夫で基礎学力定着の時間とする事が可能です。
日常生活の中でも子どもに「気づき」の機会を与える事で子どもの基礎学力を伸ばしましょう。
例えば部屋の片付けひとつにしても基礎学力の向上に大きく貢献します。
単に「部屋を綺麗にしなさい」と動作を命令するのではなく、「部屋を綺麗にするために、どうすれば良いかな」と考える機会を与えましょう。
子どもは部屋を片付けたいが、綺麗に整理整頓をする方法を知りません。
保護者のアドバイスのもとで子ども自身に部屋の片付けの方針を決めさせる事で、子どもは片付けの方法を学ぶことができ、保護者も命令することなく子どもに部屋を片付けさせる事が出来ます。
日常的に考える機会を与えることで家庭学習の際も無意識のうちに「考える」という習慣を発揮することが可能です。
基礎学力を身につけるコツ1:間違いを否定しない
決して間違いを否定してはなりません。
失敗を恐れるようになると柔軟な考え方をふさぎ込む事になります。
学習塾の講師にも稀に見られますが、導き出した答えのみを見て「それは違う」と子どもの考え方を真っ向から否定する事は絶対に行ってはなりません。
子どもは私達の想像以上に自信を失います。
答えは間違っていても構いませんので「どうしてその答えになったのか説明して」と子どもに説明させる機会を与える事で、子どもは自分の知識を整理して一つ一つ手順をおさらいする事になります。
その過程の中で子どもが自ら間違いに気づく場合も多いです。
間違いを指摘するのであれば、その後でも十分に間に合います。
基礎学力を身につけるコツ2:対話する
子どもに説明させるという過程を少し掘り下げてみましょう。
保護者の方の声の掛け方によっても子どもの反応は異なります。
保護者の方に心がけて頂きたい事は「子どもの興味を引き出す」事。
これだけです。
好ましい例として「何で黒い紙に日光を集めると燃えやすいんだろう?白い紙に集めても燃えないのかな?」等が挙げられます。
どちらも実際に紙に日光を集める場面を想定しやすく、またある程度の条件を与える事によって推測が進めやすい事がお分かりいただけるかと思います。
「黒い紙に日光を集めてみよう」だけ問いかける事も悪くはありませんが、できるだけ別の条件も与えて柔軟な発想を手助けするほうがより良いでしょう。
さいごに
基礎学力とは勉強をより深くするための基礎であるとの位置付けで解説してきました。
勉強と聞くと真っ先に暗記をすることが思い浮かべられますが、実際には暗記よりも大切なものです。
「何故そうなるのか」「他の選択肢はないのか」等、知識とは直接関係有りませんが、知識を得るため、また深めるために大切な要素です。
保護者の心がけとしては子どもの興味や視野を広げるように声掛けをすると良いでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。