専門職大学と専門職短期大学と専門職学科(以下、専門職大学など)は、2019年4月に誕生したばかりの、新しい制度の学校です。
1大学、2短大の計3校でスタートして、道内にはありません。
新制度の学校の誕生は、実に55年ぶりのことです。
文部科学省は、専門職大学などのことを、大学・短大と専門学校のいいところを合わせた学校、と説明しています。
では、普通の大学や短大より専門職大学のほうが「よい」のかというと、まだ始まったばかりではありますが「よいとは断定しにくい」と思います。
もちろん、専門職大学などは文部科学省の厳しい審査に合格して開校しているので、問題があるわけではありませんが、既存の大学や短大や専門学校に行かず、専門職大学などに行くメリットをみつけることは難しいかもしれません。
その理由を、「専門職大学などとは何か」を紹介しながら、解説します。
文部科学省の説明
まず、文部科学省の、専門職大学などに関する説明を紹介します。
「お堅い言葉」が並びますが、のちほど平易な言葉で解説しますので、そのまま読み進めてみてください。
実践、実践、実践
2019年4月からスタートしたのは、専門職大学、専門職短期大学、専門職学科の3種類で、これは実践的な職業教育を行う、新たな高等教育機関という位置づけになります。
現行の大学は、専門教育と教養教育と学術研究を行う機関であり、比較的、学問的な色彩が強い教育が行われてきました。
一方の専門職大学は、特定職種における業務遂行能力の育成に力を入れます。
そして特に、長期の企業実習や、関連の職業分野に関する教育を通じて、高度な実践力や豊かな想像力を培う教育に重点を置きます。
さらに専門職大学では、教育課程の開発を産業界と連携して行なうので、実践的な教育内容になります。
実習を増やしたり実務家を教員にしたりする
専門職大学の卒業者は、専門性が求められる職業を担うことが求められます。
実践的かつ応用的な能力を育てる教育を行うのはそのためです。
専門職大学では、実習が豊富にあり、実務家教員を積極的に起用している専門学校の教育を取り入れています。
また専門職大学では、高度な実践力の裏付けとなる理論や、豊かな想像力の基盤となる関連他分野についても学びます。
平易な言葉で解説
それでは上記の文部科学省の説明を、平易な言葉で解説していきます。
専門職大学は「ほぼ大学」、専門短期大学は「ほぼ短大」と理解してください。
専門職学科は、既存の大学や短大のなかに設置される「科」のことです。
つまり専門職学科を設置した大学や短大のなかには「普通の科」と「専門職学科」の2種類が存在することになります。
専門職大学などは「高校の上」の勉強をする点において、大学や短大と同じです。
ただ大学と短大は「学問的すぎる」傾向があります。
しかし社会や企業が求める人材は「実践的な人」です。
実践的な人とは、学校を出てすぐにしっかり働ける人、という意味です。
企業が従業員に命じる業務を行うことができる人です。
学問的すぎる内容しか学んでいないと、学校を出てすぐに実践的になることはできません。
そのため専門職大学などでは、企業実習を増やし、教員に実務家を多く加えます。
実務家とは、実際にその仕事を長くやってきた人です。
大学や短大では、実務家より理論家、評論家、批評家を教員にする傾向があります。
例えば、経済を教えている大学教授に、企業で勤めた経験がない人はたくさんいます。
専門職大学は「教員の質」もガラリと変えようとしています。
現行の大学や短大の教育内容は、文部科学省と大学や短大の教授たちが考えて決めていますが、専門職大学では産業界と連携しながら教育内容を決めていきます。
産業界とは、企業のことです。
つまり専門職大学の教育内容は、企業における新人研修のような内容になるかもしれません。
専門職大学が「見本、手本」とするのは、専門学校です。
ただ当然ですが、専門職大学は専門学校のコピー版ではありません。
そこで専門職大学では、理論や関連他分野についてもしっかり学ぶことになります。
さらに単純化して説明
以上、文部科学省の説明をかなり「意訳」してみましたが、これをさらに単純に説明すると、このようになりそうです。
・大学や短大を出たばかりの人は、企業に入ってもすぐには「使いもの」にならなかった。それは実践的な教育が足りなかったからである
・そこで専門職大学では、企業に教育内容を考えてもらったり、実習を受けさせてもらったりする
・専門職大学では、企業の新人研修のようなことをするので、卒業すればすぐに企業で活躍できる
仕組み
以上、専門職大学などの理念と立ち位置をみてきました。
ここからは、具体的な仕組みについて解説します。
「大卒」「短大卒」とは微妙に異なる
一番の関心事は、専門職大学などを卒業すると「大卒」や「短大卒」になるのか、ということだと思います。
そもそも大卒または短大卒とは「学士」または「短期大学士」を取得することになります。
学士や短期大学士のことを「学位」といいます。
学士の上には修士と博士という学位があります。
例えば、既存の大学の法学部を卒業すると「学士(法学)」を取得できます。
大学の工学部を卒業すると「学士(工学)」を取得できます。
専門職大学を卒業すると「○○学士(専門職)」という学位を取得できます。
○○には職業名や産業分野名が入ります。
専門職短期大学を卒業すると「○○短期大学士(専門職)」という学位を取得できます。
専門職学科を卒業した者に与えられる学位は「学士(○○専門職)」または「短期大学士(○○専門職)」となります。
つまり「専門職大学などを卒業すると大卒や短大卒になるのか」という質問の答えは、「限りなく大卒・短大卒に近いが、学士や短期大学士とは微妙に異なる」となります。
想定している専門職とは
専門職大学などでは、現行の大学や短大が扱わない分野も学びます。
医療、保健、農業、観光、食、人工知能は、現行の大学・短大でも学ぶことができますが、専門職大学などで学ぶ医療、保健、農業、観光、食、人工知能はよりビジネスの現場に近い内容になります。
そして、大学・短大になく専門職大学などにある分野としては、マンガ、アニメ、ファッションなどがあります。
これらの分野は、現行の専門学校にはありますので、ここからも専門職大学が専門学校の要素を積極的に取り入れていることがわかります。
ただ2019年4月現在は、専門職大学などで扱っているのは「ファッション」「リハビリテーション」「動物看護」の3分野だけです。
「年制」と「前期、後期」
専門職大学の修業年限は4年です。
現行の大学と同じ4年制です。
専門職短期大学は2年制または3年制で、これも現行の短大と同じです。
専門職大学には4年一貫制のほかに、「前期課程・後期課程制」を導入します。
例えば、1年生と2年生を前期課程として、これが修了したらいったん企業などに就職して実務経験をして、しばらく経ってから企業を辞め、後期課程に入学し直して3年生と4年生として学び直す、といったスケジュールになります。
実務経験を積むことで、3年生と4年生での勉強がより理解しやすくなるわけです。
3~4割が実習
専門職大学はとにかく「実践重視」「企業での仕事重視」なので、カリキュラムの3~4割は実習になります。
実習のなかには長期の企業実習も含まれています。
最初の専門職大学などになった3校
続いて、2019年4月に誕生した2つの専門職大学「国際ファッション専門職大学」「高知リハビリテーション専門職大学」と1つの専門職短期大学「高知リハビリテーション専門職大学」を紹介します。
国際ファッション専門職大学とは
国際ファッション専門職大学は、東京モード学園やHAL東京といった専門学校を運営している学校法人日本教育財団が開設しました。
国際ファッション専門職大学は東京、大阪、名古屋に校舎があります。
学部名は「国際ファッション学部」でそのなかに次の学科があります。
- ファッションクリエイション学科
- ファッションビジネス学科
- 大阪ファッションクリエイション・ビジネス学科
- 名古屋ファッションクリエイション・ビジネス学科
国際ファッション専門職大学のコンセプトは、世界のファッション産業界と連携して、国際的に活躍できるリーダーを育成することです。
国際ファッション専門職大学は「インターナショナルなブランドやパリ、ニューヨーク、ロンドンなど欧米のプロによる特別講義」を実施し、「ヨーロッパ、アメリカ、アジアの実習先も豊富にあり、全員が実習・海外インターンシップへ行くことができる」とPRしています(※)。
高知リハビリテーション専門職大学とは
高知リハビリテーション専門職大学は高知県土佐市にあり、学校法人高知学園が運営しています。
高知リハビリテーション専門職大学には、理学療法学専攻、作業療法学専攻、言語聴覚学専攻の3つの専攻があります。
ここを卒業すると、学位に加えて、理学療法士国家試験受験資格、または作業療法士国家試験受験資格、または言語聴覚士国家試験受験資格などを得ることができます。
ヤマザキ動物看護専門職短期大学とは
ヤマザキ動物看護専門職短期大学は東京都渋谷区にあり、学校法人ヤマザキ学園が運営しています。
3年制です。
学科は動物トータルケア学科だけで、動物看護師を育成します。
ヤマザキ動物看護専門職短期大学の最大の特徴は、900時間に及ぶ実習です。
実際に動物に触れあって扱い方や観察の仕方などを学んだり、動物病院やグルーミングサロンやペットショップで実習したりします。
まとめ~しばらく「様子見」をしてみては
専門職大学などを、さらに単純に表現すると「専門学校以上、大学・短大未満」となるでしょう。
少子化のなかで新しい形態の学校ができたのは、それだけ企業の、新卒者への不満が大きいからでしょう。
新卒者とは、大学や短大や専門学校などを卒業したばかりの人たちのことです。
大学・短大の卒業者は実践力が足りず、専門学校の卒業者は理論が足りないと思われているので、その中間を取った専門職大学が生まれたと考えられます。
では、道内の高校生や中学生が専門職大学などを目指すべきかとなると、当面は「様子見」をしたほうがよいでしょう。
道内に専門職大学がないことが、積極的にはおすすめしない理由その1になります。
そして理由その2は、「専門職大学に行くメリット」と「現行の大学・短大・専門学校に行かないデメリット」がまだ不鮮明だからです。
果たして文部科学省が期待しているような人材が、専門職大学から生まれてくるのかまだわかりません。
専門職大学の卒業者の社会での評価も、2019年4月の1年生が卒業してしばらく経たないとわかりません。
それなら無難に、現行の大学・短大・専門学校を選んでおいたほうがよい、という判断もできます。
たくさん情報を集めて、保護者や教師と相談しながら進路を決めてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。