子供たちが学校のルールをつくり、時間割も授業もテストもない学校があります。
それは、超民主的な運営をすることから新しい教育方法と考えられている「サドベリースクール」です。
一般的な学校がやっていることをほとんどやらないことから「そんなの学校じゃない」と感じる人もいるかもしれませんが、一般的な学校に向いていない子供の受け皿になったり、優秀な人材を輩出したりと、一定の成果を挙げています。
札幌にもある、サドベリースクールについて紹介します。
アメリカ生まれ、日本ではフリースクール
アメリカで誕生したサドベリースクールは「学校の新しいスタイル」といえます。
ただ、日本では文部科学省が認可している学校ではありません。
そのためサドベリースクールの定義はとても曖昧です。
かなり自由度が高い運営方法なので、定義になじまないという事情もあります。
しかしだからといって、サドベリースクールは適当な運営をしているわけではありません。
日本での法的な位置づけでは、フリースクールとなるでしょう。
日本でサドベリースクールを運営している人たちの考え方を紹介しながら、新しい学校の全体像を把握してみましょう。
4歳の子供にも1票
サドベリースクールの歴史は、1968年にまでさかのぼります。
アメリカ・マサチューセッツ州で、大学教授を中心としたグループが「子供の自由を尊重する」「子供を含め関係者全員が平等」という2つの理念を掲げてサドベリー・バレー・スクールという学校をつくりました。
これがサドベリーの語源になっています。
サドベリースクールには法的な定義はないのですが、およそ次のような特徴を備えています。
- 子供の対象は4~19歳
- 子供に何も強制しない
- 子供は自分の興味に基づいて学ぶ
- 学習カリキュラムがない
- 授業がない
- 時間割がない
- テストがない
- 学校のルールは子供とスタッフが話し合ってつくる
- 子供たちに認められないとスタッフになれない
- 学費は保護者も加わって決める
民主的であることが何より優先されるので、子供とスタッフの決定権は同格で、4歳の子供もスタッフも同じ効力の1票を持っています。
ラディカル(急進的な、過激な)な印象を持つ人もいるかもしれませんが、日本のサドベリースクールは、もう少し「マイルド」かもしれません。
それというのも、上記のルールをすべて守らないとサドベリースクールと名乗れない、というわけではないからです。
サドベリースクールの運営者たちは、これらのルールを採用したり、採用しなかったり、アレンジしたりしています。
例えば、カリキュラムが存在したり、スタッフが固定しているサドベリースクールも存在します。
サドベリースクールはフリースクールの一種
日本のサドベリースクールの特性を詳しく紹介する前に、日本の学校教育におけるサドベリースクールの位置づけについてみてみましょう。
4~19歳は、日本の学校教育では保育園・幼稚園から大学1年生の年齢になります。
そのため「サドベリースクールに通って学校を卒業できるのか」「義務教育も修了できないのではないか」という疑問がわくと思います。
日本の義務教育は、小学校と中学校を卒業しないと修了したことにならず、高校に進学できません。
そして高校を卒業しないと、大学に入試を受けることができません。
しかし、学校に行けない子供に配慮して、文部科学省は小学校も中学校も高校も行かずに大学に行く方法を用意しています。
まず小学校についてですが、フリースクールという民間が運営する教育施設に通い、小学校の校長や教育委員会が承認すれば、小学校を卒業したものとみなすことができます。
中学校に相当するフリースクールも存在します。
文部科学省が行っている中学校卒業程度認定試験に合格すれば、高校の入学資格を得ることができます。
文部科学省はさらに、高等学校卒業程度認定試験も行っていて、これに合格すれば高校を卒業していなくても大学入試を受ける資格が得られます。
フリースクールを使えば、小学校、中学校、高校に通わなくても、卒業しなくても、大学進学の道が開けるわけです。
サドベリースクールはフリースクールの一種と考えることができ、例えば札幌の一般社団法人札幌サドベリースクールも、札幌市フリースクール等助成事業の対象となっています。
したがって4~19歳までサドベリースクールに通っても、大学に進学することは可能です。
ただ履歴書に記載する学歴としては、「○○小学校卒業」と書くことはできるかもしれませんが、中学と高校については「○○中学卒業」「○○高校卒業」とは書くことはできず、「中学校卒業程度認定試験合格」「高等学校卒業程度認定試験合格」となります。
つまり「小卒」となってしまいます。
そして大学を卒業すれば「○○大学卒業」となるので「小卒、大卒」となるわけです。
サドベリースクール教育の優れている点
サドベリースクールでは、子供たちが学びたいことを学びますが、そのためには子供自身がなぜそれを学びたいのか、スクールミーティングでスタッフたちに説明しなければなりません。
それが了承されれば、スタッフたちが子供の学習をサポートすることになります。
サドベリースクールでは、こうした特殊な教育方針によって、子供たちの積極性、探求心、行動力、コミュニケーション力、協調性などを育もうと考えています。
また、例えば11~12歳の子供が「小学校6年生が学んでいることを学びたい」といえば、スタッフが小6の教科書を使って子供に教えることもできます。
サドベリースクールについてより具体的なイメージを持てるように、札幌サドベリースクールの運営内容をみていきましょう。
札幌サドベリースクールの運営内容
札幌市豊平区にある札幌サドベリースクールは2012年に設立されました。
2018年に一般社団法人となり、2019年度に札幌市フリースクール等助成事業に認定されました。
こうした取り組みによって社会的な信用度が高まり、札幌サドベリースクールに通う子供は、公立学校に通っているとみなしてもらえるまでになりました。
「校舎」は一軒家を使っています。
対象とルール
札幌サドベリースクールの対象は、5歳程度から18歳までです。
高校進学を目指す不登校中学生の支援も行っています。
札幌サドベリースクールのルールには次のようになっていて、とてもユニークです。
- 「単純なカリキュラムをつくる」
- 「子供たちが安心して過ごせる環境をつくる」
- 「体力をつける活動を、プライドを傷つけないように進める」
- 「小さな成功体験を積んで自己肯定感を育む」
- 「行動をとがめない」
- 「子供から言葉が出てくるまで待つ」
- 「大人が社会性を発揮している姿を子供に見せる」
- 「大人が子供から学ぶ」など
学習とカリキュラム
札幌サドベリースクールの学習内容は、一般的な学校の科目、音楽、芸術、食育などとなっています。
先ほどサドベリースクールの特徴として「カリキュラムがない」「時間割がない」と紹介しましたが、札幌サドベリースクールには両方ともあります。
カリキュラムは以下のとおりです。
4月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 イベント:PCリテラシー講習 | 10月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 イベント:ハロウィンパーティ |
5月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 おでかけ:芸術の森・円山動物園 イベント:陶芸体験 | 11月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 |
6月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 おでかけ:キャンプ | 12月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 イベント:特別給食・クリスマス会・食育講座(おせち) |
7月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 イベント:和装体験・特別給食 | 1月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 おでかけ:スキー・スケート |
8月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 おでかけ:海水浴 | 2月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写・箱庭体験 おでかけ:雪まつり・スキー・スケート イベント:食育講座(味噌) |
9月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 おでかけ:果物収穫体験 イベント:発表会 | 3月 | クラス:国語・算数・ピアノ・歌・書写 おでかけ:スキー・スケート イベント:特別給食 |
時間割は次のとおりです。
10:00 登校
10:10-11:50 午前クラス
12:00-13:00 昼休み
13:00-15:00 午後活動
15:00-15:15 おやつ
15:15-15:45 自由活動
15:45 そうじ
16:00 下校
自由活動では、子供たちはピアノを弾いたり、歌ったり、踊ったり、絵を描いたり、スポーツをしたり、刺繍をしたり、本を読んだりと、思い思いにすごします。
そして子供が要望すれば、教材を用意して対応します。
学費
札幌サドベリースクールの学費は、入学金15万円、1カ月3万円となっています。
その他、昼食代、イベント費、暖房費、クラス受講費などの費用がかかります。
先ほどサドベリースクールの特徴のところで「学費は保護者も加わって決める」と紹介しましたが、札幌サドベリースクールでは運営者側が学費を決めています。
保護者の協力は必要
札幌サドベリースクールでは、保護者の協力を求めています。
運営方法は札幌サドベリースクール側が決めますが、スタッフと保護者のコミュニケーションは、一般的な学校の教師と保護者の関係より濃密になります。
特に子供にオリジナルな教育を提供する場合は、保護者の深い関与が必要になります。
まとめ~変わっているのか、理想なのか
サドベリースクールを選択することは、子供にも保護者にも簡単なことではないはずです。
札幌サドベリースクールを含め、世界でまだ40~50校ほどしかない珍しい教育形態だからです。
また日本の小学校、中学校、高校の教育は、世界的にみても優秀なので、サドベリースクールを選択することでそれを放棄してしまうことは惜しい気もします。
ただ小学校、中学校、高校ではさまざまな深刻な問題が起きていて、なかなか解決できない現状から考えると、「変わっている」サドベリースクールの教育方法のほうが「理想的」であると感じる子供もいるでしょう。
新しい学びの形として、期待したいと思います。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。