中学生や高校生のなかには、将来、世界の大きな舞台で働きたいと考えている人もいるでしょう。
そのような大きな夢を持っている人にとって、国連の一組織であり、教育・文化・文明で世界平和を構築するユネスコは、理想の職場に違いありません。
ユネスコはUNESCOと表記し
United Nations Educational,
Scientific and Cultural Organization
の頭文字を取っています。
日本名は国連教育科学文化機関です。
世界で活躍するには英語は必須なので、中高生がユネスコについて知れば英語の学習意欲が向上するはずです。
そして北海道は、ユネスコと意外な関わりを持っています。
ユネスコとは
「ユネスコは国連ファミリーの一員です」と聞いても、何をいっているのかよくわからないと思います。
それは無理からぬことで、国連という組織は、企業にも政府にも行政にも似ていないからです。
国連は国連として理解しなければなりません。
国連ファミリーの一員
国連については漠然と、世界の国と地域の利害関係を調整し、ときに激しくやりあいながら、世界平和の維持に努めている組織、というイメージを持っているのではないでしょうか。
国連はいろいろな機関の集合体です。
世界平和を達成するには、無限に存在する障壁を超えなければなりません。
そのため、いろいろな機関を設置して、壁を1個1個取り除く必要があります。
ユネスコは、教育、文化、文明の分野に存在する「平和の邪魔になる壁」を取り除く機関です。
国連を構成する機関のうち、主要なものは
- 総会
- 安全保障理事会
- 経済社会理事会
- 信託統治理事会
- 国際司法裁判所
- 事務局
の6つです。
この6つの主要機関も国連ファミリーです。
そして国連ファミリーの一員であるユネスコは、3)経済社会理事会に属する「補助機関」という立場になります。
3)経済社会理事会にはユネスコの他に、世界の通貨・金融システムを安定させる国際通貨基金(IMF)や、保健活動と病気の予防に関する世界保健機関(WHO)といった、社会の教科書に登場する機関も含まれています。
世界平和を維持するには「やること」がたくさんあるので、それを国連ファミリーで分担しているわけです。
ユネスコが重視する4項目とは
ユネスコはどのような組織でどのような役割を担っているのでしょうか。
国連の広報のホームページの一文をそのまま引用してみます。
ユネスコは異なる文明、文化、国民の間の対話をもたらす条件を創り出すために活動する。一般に共有する価値観を尊重することに基づき、持続可能な開発、平和の文化、人権の順守、貧困の削減を目指す。
ユネスコの活動領域は教育、自然科学、社会・人文科学、文化、コミュニケーションおよび情報に及ぶ。とくに関心を持っていることは、すべての人が教育を受けられるようにし、国際および政府間の科学計画を通して自然科学と社会科学の研究を促進することである。
また、文化的アイデンティティの表明を支援し、世界の自然遺産や文化遺産を保護し、情報の自由な流れと報道の自由を促進し、かつ開発途上国のコミュニケーション能力を強化することに努める。現在2つの優先課題がある。アフリカとジェンダーの平等である。
ユネスコが着眼しているのは、開発、平和、人権、貧困であることがわかります。
そしてユネスコがとくに重視しているのは、
- すべての人が教育を受けること
- 自然科学と社会科学の研究を促進すること
- アフリカの平等
- ジェンダー(男女の性区別)の平等
となります。
ユネスコの具体的な仕事
ではユネスコは、具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。
1960年代に、アフリカをはじめとする植民地支配された国々で独立が相次ぎました。
このときユネスコは基礎教育の重要性を強く訴えてきました。
特に女性の識字率の向上が目標に掲げられました。
アフリカでの教育の普及は現在のユネスコにとっても依然として重要な業務になっています。
ユネスコと北海道の関わり
ユネスコと北海道は、よく知られている関わりと、あまり知られていない関わりがあります。
両方とも紹介します。
ユネスコに認められた斜里町と羅臼町
例えば斜里町と羅臼町にまたがる知床半島は世界自然遺産に認定されていて、これを認定しているのはユネスコです。
ユネスコの調査員が知床半島に入り、自然や生態系が世界的に貴重であることを確認し、世界自然遺産になりました。
北海道教育大釧路校はユネスコスクール
ユネスコには、ユネスコが掲げる理想を実現するために協力する、ユネスコスクールがあります。
ユネスコスクールは2013年に60周年を迎え、180以上の国・地域で9,500校以上が指定されています。
日本には22の大学が指定され、道内では北海道教育大釧路校が唯一、ユネスコスクールに加盟しています。
ユネスコスクールの使命は、「人格の発達、自立心、判断力、責任感といった人間性を育むこと」「関わりとつながりを尊重できる個人を育むこと」です。
北海道教育大釧路校は、豊かな自然環境を生かしたESD推進事業を展開しています。
ESDとは「持続可能な開発のための教育」のことです。
ユネスコで働くには
ユネスコには2,000人を超える職員が働いています。
それらの職員は170の国・地域の出身者です。
できれば博士号を取得していることが望ましい
ユネスコで働くには、英語ができて大学を卒業するだけでは足りません。
まず学位は、最低でも修士号が必要です。
4年生の大学を卒業した人には学士号が付与されます。
学士号を取った人が大学院に進学し、そこで修士論文を書き上げて初めて修士号を取得できます。
そしてできれば、そのまま大学に残り、博士号を取得したほうがベターです。
もしくは、修士号を取ったあとの社会人経験を積み、その後大学に戻って博士号を取得してもよいでしょう。
さらにいえば、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国の大学で修士号や博士号を取ることが望ましいでしょう。
それはユネスコ職員は国際的な場で活躍しなければならず、そのとき高度な言語能力が必要になるからです。
修士号や博士号を、外国の大学の外国人教授の外国語の講義を受けることで取ることができれば、言語能力があることを証明できます。
そして修士号や博士号を取る分野は、教育学、福祉、言語学、統計学、国際開発学などの分野が望ましいでしょう。
スタートラインに立ってから至難が始まる
ここがユネスコへの「就職活動」のスタートラインになります。
しかしユネスコは、新人職員を4月に一斉採用することはありません。
ユネスコは、空きが出たら適した人材を採用するようにしています。
そのとき一般公募しますので、ユネスコ職員を志望する人はそれに直接応募します。
しかしその空いた席は世界中のエリートたちが狙っているので、先ほど紹介した条件をクリアしているだけでは、履歴書を送っても面接すらしてもらえないでしょう。
外務省のJPO制度を使う
ユネスコ職員になるにはもうひとつルートがあり、それは日本の外務省がユネスコに職員を派遣するJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)制度を利用する方法です。
この制度を使うと、ユネスコの本部があるフランス・パリや、ユネスコ国際教育局があるスイス・ジュネーブなどへの飛行運賃や滞在費などが外務省から支給されます。
派遣期間は2年ほどです。
JPOとして派遣されるには、外務省が行っているJPO派遣候補者選考試験に合格する必要があります。
その試験を受けられるのは、次の条件に当てはまる人です。
1)35歳以下(受験年の4月1日現在)
2)外務省として派遣可能な国際機関に関連する分野における大学院修士課程を修了し、当該分野に関連する職種において2年以上の職務経験を有すること。
3)英語で職務遂行が可能であること。
4)将来にわたり国際機関で働く意思を有すること。
5)日本国籍を有すること。
実力が認められなければ正職員になれない
ただJPOでもまだ「研修生のようなもの」にすぎません。
JPOとして派遣される2年ほどの期間内に働きを評価してもらい、正職員として採用されなければなりません。
外務省は、ユネスコで働くことの難しさと厳しさを次のように解説しています。
JPOは派遣期間終了後、引き続き正規職員として派遣先機関や他の国際機関に採用されることが期待されますが、自動的に国際機関の正規職員になることが保証されるものではありません。派遣期間終了後に正規職員となるためには、通常の手続きに従って空席ポストに応募して採用される必要があります。
これまでの内容をまとめると次のようになります。
ユネスコ職員になるには、海外の大学で専門分野の勉強を究めて博士号を取り、専門分野の業務経験を積み、英語で仕事ができるくらいの語学力を持ち、外務省の試験に合格し、JPOとしてユネスコで2年間働き、その働きぶりを評価されなければならない
しかもユネスコが本採用してくれなければ、その後の就職の保障はありません。
「超賢い人がリスクをおかして挑戦する仕事」それがユネスコ職員というわけです。
まとめ~難しいからこそ挑戦し甲斐がある
ユネスコ職員になることは難しく、さらに、能力があっても頑張っても採用されない可能性もあります。
何しろライバルは世界の天才・秀才たちだからです。
しかし松浦晃一郎氏という人をご存知でしょうか。
アジア人で初めて、ユネスコのトップである事務局長に就任した人です。
松浦氏は東大法学部の在学中に、つまり大学生のときに外交官試験に合格し、卒業後に外務省に入省しました。
ユネスコ職員になるのであれば、ここまでの見事な経歴は必要ありませんが、しかしこの経歴に近いほうがユネスコ職員に近付くことができるのは明らかです。
大変な道ではありますが、挑戦し甲斐のある夢です。
北海道内の中学生や高校生が「将来、ユネスコの職員になりたい」と言っても、周囲から「無理に決まっている」と言われてしまうかもしれません。
もしくは、ユネスコの職員が「なんなのか」も理解してもらえないかもしれません。
しかし、中学、高校時代に勉強をして、東大かそれに近い大学に合格し、大学で国際感覚を磨けば、確実にユネスコ職員に近付くことができます。
あきらめたらそこで終わりです。
あきらめなければ一歩でもユネスコ職員に近付くことができます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。