高校から大学に入学すると、多くの学生は生活環境が大きく変化します。
これまで決まった時間に登下校をしていた毎日から、カリキュラムをうまく組めば週に4日間休みということも可能で、行動範囲は大きく広がることでしょう。
それに伴って出費も増えるため、奨学金を利用している大学生も珍しいことではありません。
実際に2019年2月に全国大学生活協同組合連合会が発表した「第54回学生生活実態調査の概要報告 」によると、およそ3割の大学生がなんらかの奨学金を受給していることが分かっています。
大学生にとって、奨学金を借りて大学生活を送るというのは一般的な認識ということでしょう。
しかし借りる前にしっかりと返済のことを考えてなければ、大学卒業後に苦しい経済状況に陥ってしまうことが考えられます。
2019年3月に労働者福祉中央協議会が発表した「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査 」によると、奨学金の返済に関して「少し苦しい・苦しかった」「かなり苦しい・苦しかった」と回答した人の割合はおよそ4割にも上っているのです。
一般的なことではあるとは言え、奨学金を利用するというのはお金を借りることに他なりません。
そのため、利用する前に返済に関してしっかりと理解しておく必要があるのです。
そこで当記事では奨学金返済の種類や猶予期間、減額や免除などに関して詳しくご紹介します。
返さなくて良いものもある?奨学金の種類を知ろう
奨学金、と一言で言っても実は非常に様々な種類があります。
その中には返済義務の無い奨学金も存在するのです。
自身の経済状況を踏まえて最適な奨学金を選ぶことが、大学卒業後に返済に苦しまないための何よりのポイント。
そこで以下に奨学金の種類をご紹介します。
日本学生支援機構の奨学金
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金は学生の8割が利用する最もポピュラーなものです。
主なものは以下にご説明する2種類に分かれます。
学力基準:高校の成績の平均値3.5以上(低所得世帯は学力基準を満たさなくても申込可)
家計基準:給与所得者は年収747万円以下、それ以外は年間所得349万円以下
1ヶ月に借りられる金額:国公立は45,000円(自宅通学)または51,000円(自宅外通学)、私立は54,000円(自宅通学)または64,000円(自宅外通学)、そのほか月30,000円も選択可能
第一種奨学金は無利息で借りられる奨学金制度です。
無利息で借りられるという条件からどの学生でも利用できるというわけではなく、高校の成績の平均値3.5以上という条件が設けられています。
また希望者も多いため、中々利用できることは難しいことでも知られ、上記条件を自身が満たすかどうかしっかりと確認する必要があります。
学力基準:高校の成績が平均水準以上、学業を確実に修了できる見込があると認められる
家計基準:給与所得者は年収1,100万円以下、それ以外は年間所得692万円以下
1ヶ月に借りられる金額:大学や通学形態を問わず30,000円・50,000円、80,000円、100,000円、120,000円から選択(私大の医学・歯学・薬学・獣医学過程は増額可能)
第二種奨学金は利息付きで借りられる奨学金制度です。
第一種奨学金よりも利用できる条件が幅広く、まず第一種奨学金に申し込んで審査に通過できない場合に申し込む学生が多いです。
奨学金を利用している学生の内、大半がこの第二種を利用していますが、利息付きの分しっかりと毎月の利用額を考えることが求められます。
過去には日本学生支援機構の奨学金との併用可能な教育ローンについても以下のコラムで紹介しています。
また浪人をした場合も同様に奨学金を利用することができます。詳しい条件などについては以下のコラムで解説しています。
民間企業の奨学金
民間企業が奨学金を行なっている場合もあります。
社会貢献を目的に奨学金制度を設けている場合が多く、そのため返済義務がないケースも多いです。
返済義務を設けていない例としては「公益財団法人コカ・コーラ教育・環境財団 」や「キーエンス財団 」などが挙げられます。
返済不要であるメリットがある一方で、競争率が高く利用するためのハードルが非常に高いケースが一般的です。
新聞奨学生制度
新聞奨学金制度は各新聞会社が設けている奨学金制度です。
大学入学後に新聞配達のアルバイトをすることを条件に利用することができ、奨学金の費用はアルバイト代に充てるため返済不要となっています。
利用者には寮を用意している新聞社も多く、生活費を抑えられるというメリットもあります。
一方でアルバイトと学業の両立が難しくなるケースも多く、学生生活を制限されたくないという方には不向きと言えるでしょう。
実際にどれくらい返さなければいけない?シミュレートをしてみよう
上記にて奨学金には様々な種類があることをご認識いただきました。
それぞれ内容をしっかりと確認し、ご自身にとって最適なタイプを選択されてください。
しかし種類をご紹介しただけでは、大学卒業後に実際いくら返済しなければならないかイメージがつきにくいことだと思います。
そこで奨学金を利用した場合に、毎月どれぐらい返済しなければならないかを確認してみましょう。
シミューレションの条件は「第54回学生生活実態調査の概要報告 」や「平成19年4月以降に奨学生に採用された方の利率 」などを参考に以下とします。
- 奨学金の種類:第二種奨学金
- 利用期間:4年間
- 受給額:60,000円
- 利率:0.153%
尚、今回のシミュレーションを行うにあたり「奨学金貸与・変換シミュレーション 」を利用しました。
さて、上記条件でシミュレートした結果、返済額は返還期間16年で毎月15,192円であることがわかりました。
社会人になると家賃や交際費など大学生の時よりも出費が多くなることが大半ですので、毎月15,192円という返済額はかなり家計に打撃を与えると言えるでしょう。
もちろん上記条件の受給額を借りる予定の場合はさらに返済額は大きくなるので、ぜひご自身でもシミュレーションを行ってみてください。
奨学金はいつから返済する?猶予期間とは?
さて、奨学金の種類や大学卒業の返済額に関してご理解いただいたところで、当記事の本題である返済の猶予期間や減額などに関してご説明してまいります。
まず最初に奨学金はいつから返済するかを解説いたします。
結論から申し上げると、奨学金の返済開始月は「貸与が終了した月の翌月から数えて7ヶ月目の27日」です。
そのため、大学を卒業する3月まで奨学金を借りていた場合はその年の10月27日から毎月指定口座に引き落としがされる、ということになりますね。
大学を卒業してしばらくのうちは返済が行われないため、ついうっかり忘れてしまう人も中にはいるようですが、奨学金の返済が滞るとブラックリストに追加されたり、延滞金がかかってしまったりと多くのリスクが存在するのです。
このリスクに関しては後述いたします。
そのため返済が開始される月をしっかりと把握し、問題なく返済が行われるように準備しておきましょう。
しかし、急な出費や予期せぬ大病などで返済が滞ってしまうことは十分あり得ます。
そのような際に検討すべき奨学金の猶予期間に関してご紹介いたします。
一般猶予
一般猶予は失業や経済困難、数年延滞している場合の猶予申請といった理由で申請できる猶予期間のことを指します。
対期間は最長10年間までとされていますが、猶予期間が1年以上となる場合は毎年申請を行うことが必要です。
なお、災害・傷病・生活保護受給中・産前産後休業・育児休業・一部の大学校在学・海外派遣といった理由に関しては10年の制限なく利用することが可能です。
また一般猶予を利用したからといって、利息や延滞金・保証料などは発生せず、当初の返済額と変わりません。
一般猶予は様々な理由で利用申請をすることができますが、理由それぞれに条件が必要となります。
つまり経済困難の場合は「経済困難だから」というだけでなく、具体的な年収の提示が必要となるのです。
以下に代表的な理由の条件をご紹介します。
- 経済困難:年収300万円以下(給与所得者)、年収200万円以下(給与所得者以外,必要経費控除後)
- 傷病(休職中):年収200万円以下(給与所得者)、年収130万円以下(給与所得者以外,必要経費控除後)
- 産前休業・産後休業・育児休業:年収300万円以下(給与所得者)、年収200万円以下(給与所得者以外,必要経費控除後)
理由によって一般猶予が利用できる条件は異なりますが、概して年収が300万円以下であれば一般猶予を利用できると認識しておいて間違いないでしょう。
猶予年限特例または所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予
猶予年限特例または所得連動返還型無利子奨学金の返還期限猶予は、一定の収入(給与所得者は年収300万円、給与所得者以外は200万円)を得るまで期限なく返済を先延ばしにすることができる制度です。
一般猶予との最大の違いは猶予期間に制限が無いことが挙げられます。
しかし対象者に制限があり、奨学金の受給が始まった際に発行される奨学生証もしくは貸与奨学金返還確認表に「猶予年限特例」か「所得連動返還型無理子奨学金」の記載がある方のみが対象となります。
また申請する際の理由は「新卒等の場合」や「経済困難」に限り、被扶養者である場合は要件を満たす必要があるなど、利用するにあたっては様々な条件がある制度です。
そのため、もし奨学金の猶予期間を申請する際は一般猶予を検討することが多いでしょう。
奨学金の減額返還制度はどうやって利用する?
経済困難が長く続くことが予想される場合、奨学金の返還猶予でなく減額返還を検討することも一つの手です。
減額返還制度利用すれば、毎月の返済額を1/2もしくは1/3に減らすことができます。
例えば、毎月の返済額を30,000円とすると、15,000円か10,000円まで減額することが可能となるのです。
この制度は最長15年間利用できます。1年毎に更新の申請が必要です。
経済状況が苦しい時は大きく役立つことでしょう。
しかし毎月の返済額が減額となるだけで奨学金の総額が減ることはないため、返済期間が延長してしまうことは認識しておきましょう。
またこの制度を利用するためには諸条件に当てはまる必要があるため、早速以下にご紹介します。
条件1:新卒等
平成28年12月以降に卒業もしくは退学し、卒業・退学の翌年6月までに減額返還制度を申請する場合で、申請が初めての方が対象となります。
条件2:経済困難
急所所得者の場合は税込年収325万円以下、給与所得者以外の場合は必要経費等控除後の所得額が225万円以下である方が対象となります。
条件3:失業中
減額返還開始月から数えて半年以内に失業した方が対象となります。
条件4:傷病
病気や怪我のために無職になった方が対象となります。
条件5:災害
減額返還開始月から数えて、1年以内に災害に遭った方が対象となります。
これらのいずれかの条件に当てはまる場合、減額返還制度の対象となります。
しかしすでに奨学金の返済を滞納してしまっている場合は、滞納解消後から出ないと減額返還制度を利用できないため、ご注意ください。
また第一種奨学金の場合にのみ適用される「所得連動返還方式」を利用している場合は、減額返還制度の対象外となります。
利用するにあたって注意したいのはやはり毎年申請が必要なことですね。
うっかり申請を忘れてしまい、元の返済額が引き落とされて生活が困窮してしまった・・・なんてことにならないように、必要な場合はしっかりと継続申請を行いましょう。
奨学金が免除される条件って?
これまで奨学金の猶予期間や減額返還制度に関してご紹介してまいりました。
しかしいずれも奨学金の返済総額を減らすものではなく、著しく経済的に困窮しているという場合は返済総額を減らしたいと考えることでしょう。
そのような場合には奨学金の免除を検討すべきです。
それでは早速、3つの奨学金免除制度を以下にご紹介します。
死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除
まず最初にご紹介する条件は「死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除」です。
受給者本人が死亡し奨学金を返還出来なくなった時や、精神や身体に障害を負ってしまい、労働能力を失ったり高い制限がかかってしまったりした場合に利用できます。
全額もしくは一部免除を免除してもらうことが可能です。
返還特別免除(全額,現在受給者は対象外)
次にご紹介する条件は「返還特別免除(全額)」です。
ご注意いただきたいのは現在やこれから奨学金を借りる方は対象外になるということです。
対象者は平成15年度以前に大学院の第一種奨学生に採用された方か平成9年度以前に大学学部・短期大学・高等専門学校の1年次に入学し、第一種奨学生に採用された方が対象となります。
加えてこの制度を利用するためには、政令に定められた教育職または研究職に就くことが必要です。
その具体例としては以下が挙げられます。
- 小・中・高校などの常勤の先生
- 高等専門学校の常勤の先生
- 大学の助手以上の職や常勤講師
- 少年院で勉強を教える職
- 文部科学大臣の指定の試験所などで教育又は研究を行う職
特に優れた学業による返済免除(全額・半額)
最後にご紹介する条件は「特に優れた学業による返済免除(全額・半額)」です。
大学院で第一種奨学金を利用していて、貸与期間中に特に優れた学業成績をあげた学生が対象となる免除制度です。
しっかりと学業で結果を残せば奨学金を全額もしくは半額になるというのは、学生にとって非常に嬉しい制度ですね。
尚、日本学生支援機構が学業成績を判断するポイントの例としては以下などが挙げられます。
学位論文その他の研究論文
学位論文の教授会での高い評価、関連した研究内容の学会の発表、学術雑誌への掲載または表彰など、論文の内容が特に優れていると認められている必要があります。
大学院設置基準第16条に定める特定の課題についての研究の成果
特定の課題についての研究の成果の審査及び、試験の結果が教授会等で特に優れていると認められる必要があります。
著書・データベースその他の著作物(第1号及び第2号に掲げるものを除く)
専攻分野に関連した著書、データベースその他の著作物等(第1号及び第2号に掲げる論文などを除く)が、社会的に高い評価を受けるなど、特に優れた活動実績として評価される必要があります。
音楽・演劇・美術その他芸術の発表会における成績
教育研究活動の井蛙kとして、専攻分野に関連した国内外における発表会等で高い評価を受けるなど、特に優れた業績を挙げたと認められる必要があります。
スポーツの競技会における成績
教育研究活動の成果として、専攻分野に関連した国内外における主要な競技会等で優れた結果を収める等、特に優れた業績を挙げたと認められることが必要です。
そのほかの判断ポイントしては「ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績」「研究または教育に関わる補助業務の実績」などです。
尚、申請は奨学金の貸与が終了した月が属する年度に行う必要があります。
機会を逃すと申請不可となるのでご注意ください。
もし奨学金が返せなくなったらどうなる?
民間企業が設立したものなど例外もありますが、基本的に奨学金は借りた後は必ず返さなければならないものです。
しかし、中には不測の事態によって返済が難しくなることもあるでしょう。
そのような際には今回ご紹介したような猶予期間や減額返還制度などを利用することを検討する必要があります。
が、そういった手続きが面倒で「奨学金の返済が遅れてもまとめて返せばいいだけじゃないの?」とお考えの方もいるのではないでしょうか。
が、奨学金の返済が遅れたり返せなくなったりするのは非常に大きなリスクを伴うのです。
以下にて詳しくご解説いたします。
延滞金が発生する
まず最初にご紹介するリスクは「延滞金が発生する」です。
返還期日を超過しても奨学金の返済がされていない場合は2.5〜10%の延滞金が発生します。
返済の遅延によって本来支払う必要のないお金も返済しなければならなくなるというのは、大きなリスクと言えるでしょう。
連帯保証人に連絡が行く
次にご紹介するリスクは「連帯保証人に連絡が行く」です。
人的保証で奨学金を利用し、本人に返す意思がないと判断されると連帯保証人に連絡が行きます。
学生の場合、連帯保証人は父親や母親、親戚であることが大半でしょう。
そういった身内に大きく迷惑をかけてしまいます。
3ヶ月滞納すると個人信用情報機関のブラックリストに登録される
次にご紹介するリスクは「3ヶ月滞納すると個人信用情報機関のブラックリストに登録される」です。
個人信用情報とはクレジットやローンなどの信用取引に関する契約内容や返済・支払状況・利用残高などの取引状況を記録したものです。
つまり、奨学金を3ヶ月滞納したことが個人信用情報機関に記録され、ブラックリストに登録されてしまうのです。
そうするとクレジットカード契約ができなくなったり、住宅や車のローンが組めなくなったりと様々なデメリットが発生します。
9ヶ月滞納すると一括払いを求められる
次にご紹介するリスクは「9ヶ月滞納すると一括払いを求められる」です。
滞納期間が9ヶ月にも及ぶと、奨学金の一括払いを請求されます。
そうすると数百万円にも及ぶ多額のお金を一挙に払う必要が発生してしまうのです。
これを拒否や無視した場合は保証人に請求が行くのはもちろん、債権回収業者による督促が行われます。
給料・財産の差し押さえや提訴などを受ける
最後にご紹介するリスクは「給料・財産の差し押さえや提訴などを受ける」です。
さらに奨学金を返済しない状況が続くと、裁判を起こされ法的措置によって給料・財産の差し押さえが強制的に行われます。
給料が差し押さえられると生活に大きな支障を来たすことは言うまでもないでしょう。
以上が奨学金の返済が遅れたり、返済できなくなったりした場合に発生するリスクです。
信用情報のブラック化や給料の差し押さえなど、発生するリスクがいかに大きいかお分かりいただけたと思います。
まとめ
以上、大学の奨学金の種類や返済の猶予期間、減額や返済が遅れた際のリスクなどをご紹介しました。
冒頭でも触れたように奨学金はおよそ3割の大学生が利用するもので、大学入学を控えた学生の中にも奨学金の利用を検討している方が多いかもしれません。
それ自体には全く問題はないのですが、もし返済が滞ってしまうと非常に大きなリスクを抱えてしまうことになります。
そのため、万が一返済が難しい状況になった際は今回ご紹介したような猶予制度や減額返還制度を利用されてみてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。