文字がびっしり書かれた本の1ページを数秒で読み、本1冊を3分足らずで読み終える「パフォーマンス」を見たことはありませんか。
そうです、速読法です。
速読法は世界中で研究されていて、日本にも「速読スクール」があります。
本を短時間で読み終えることができれば、本を読む苦痛が最小限になります。
また、速読法を受験に応用すれば、大量の参考書の内容を一気に頭のなかに入れることができるので、どのような難関大学でも合格できそうな気がします。
しかし残念ながら、速読法には「ドラえもんの秘密道具」のような奇跡を起こす力はありません。
ただし、速読法は「インチキ」ではありません。
速読法は、適切な人が使いこなせば、学力アップが期待できます。
速読法の誤解を解きながら、勉強への応用法を考えていきましょう。
速読法に関する誤解を解く
速読法については、多くの誤解があります。
字だけの分厚い本をものの数分で読み終えてしまうパフォーマンスについては、速読法の専門家も否定しています。
速読法の解説をする前に、速読法に関する誤解を解いておきます。
超能力ではない
速読法は超能力ではありません。
では、速読法は何なのかというと、特別な訓練を積んで獲得する読書スキルです。
例えば、本を読めなかった子供が、文字を習えば本を読めるようになります。
新聞をうまく読みこなせない人でも、新聞の構成を知ったり、社会や政治や経済の基礎知識を獲得したりすることで、新聞から情報を吸収することができるようになります。
速読法もこれと同じで、速く読みながらしっかり意味を汲み取る訓練を積むことで、1冊の本を読了する時間を短くすることができます。
奇跡の学力アップ法ではない
速読法は、勉強ができる人が、より学力を上げるためのツールと考えたほうがよいでしょう。
教科の基礎知識がない人が、速読法で教科書や参考書を一気に読み込んでも、恐らく学力はまったく上がらないはずです。
その意味では、速読法は「学力を上げるツール」ではありますが、「奇跡の学力アップ法」ではありません。
ではなぜ速読法は、一定の学力がある人には有効で、基礎学力がない人には効果が出ないのでしょうか。
それは、速読法が「無駄な部分を読まない読み方」だからです。
教科書や参考書を含むすべての本には、有効な部分と無駄な部分があります。
著者は、記載したすべての内容は、有効な知識や情報であると考えて本を書いていますが、有効か無駄かを判断するのは読者です。
例えば、中1向けの英語の参考書に書かれてある知識や情報は、高3生にとって有効でしょうか無駄でしょうか。
中1の英語の知識がうろ覚えの高3生にとっては、中1向けの参考書には有効な知識が詰まっています。
この人は、中1の参考書から多くのことを学ぶことができます。
しかし、北大を目指している進学高の高3生にとっては、中1向けの参考書には、無駄な情報しか書かれていません。
北大を目指しているような高3生は、中1の英語の知識は完全に頭に入っているからです。
すでに知っている知識が書かれた本は、無駄な本と考えることができます。
速読法では、本に書かれてある内容を、瞬時に(または、ごく短時間で)有効情報と無駄情報にわけていきます。
有効情報と無駄情報の「仕分け」ができるようになると、無駄情報を読まなくてよいので、短時間で1冊の本を読了することができます。
基礎学力がついていない人は、参考書に書かれてあることのすべてが有効情報なので、速読法はむしろしないほうがよいのです。
排除する無駄な情報がないからです。
しかし、一定の学力がある人は、もう「新しい知識や情報しか」要らないわけです。
そのような人は、参考書のなかの無駄な情報をどんどん排除して、必要な情報だけを吸収すべきです。
だから、学力がある人は、速読法が欠かせなくなります。
速読法は頭がいい人だけのものではない
では、基礎学力がついていない人が、速読法を知る必要がないのかというと、それも間違いです。
なぜなら、勉強を進めれば学力が向上するので、いつか必ず速読法が必要になるからです。
基礎学力がない人が急に勉強時間を増やすと、驚くほどグングンと成績が上がります。
しかし突如、成長率が落ち着いてしまいます。
それは、学習効率が低下するからです。
例えば、参考書Aの内容が100だったとします。
学力0だった人が参考書Aを徹底的に勉強すれば、学力は100になります。
それでこの人が、より難解な参考書Bを使って勉強を始めたとします。
参考書Bの内容も100ありますが、一部の内容は参考書Aとダブっています。
参考書Aに載ってなく、参考書Bにだけ載っている知識が50だとしたら、この人が参考書Bを仕上げても、学力は50しかアップしません。
100の学力が150になるだけです。
同じく1冊の参考書を勉強していながら、参考書Aでの勉強は学力を「100」も上げたのに、参考書Bでの勉強は学力を「50」しか上げません。
これが、学力が上がるほど、学習効率が落ちるメカニズムです。
学力が上がった人が、学習効率を落とさないようにするには、参考書Bを短時間で終わらせて、より難しい参考書Cに移らなければなりません。
だから「今は」学力が高くない人も、学力が上がったときのことを考えて、学習効率を高めることができる速読法については知っておいたほうがよいのです。
「正しい速読法」の理論
先ほど紹介したパフォーマンスとしての速読法は、正しくない速読法です。
速読法には、正しい速読法があるので、それを知っておきましょう。
「読視野」「視点停留時間」「視点飛躍」を押さえておく
速読法の理論は、「読視野」「視点停留時間」「視点飛躍」の3つで構成されています。
読視野とは、文章を一度に見ることができる範囲です。
例えば、次の文章を読んでください。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。 |
この文章を次のように読むことはないと思います。
吾 | 輩 | は | 猫 | で | あ | る |
次のように読む人が多いのではないでしょうか。
吾輩は | 猫である。 | 名前は | まだ無い。 |
この「吾輩は」や「猫である。」や「名前は」が「ひとつの読視野」です。
速読法の専門家によると、日本人の平均的な「ひとつの読視野」は3.2文字です。
視点停留時間とは、「ひとつの読視野」にかかる時間です。
「ひとつの読視野」内の文字を理解するのに一定の時間がかかります。
その時間が視点停留時間で、日本人の平均は1/4秒です。
そして「ひとつの読視野」の文字を理解できたら、次の「ひとつの読視野」に移ります。
視点飛躍は、視点が「ひとつの読視野」から次の「ひとつの読視野」に移動する時間です。
視点飛躍の平均は15/1,000秒です。
つまり平均的な日本人は、次のように読書をしています。
「3.2文字を1/4秒で理解し、次の3.2文字を読むまでに15/1,000秒かかる」
つまり320字の文章を読むのに、約26秒かかります。
計算式は以下のとおりです。
以下の文章は329字ですので、これを30秒以内に読めれば、日本人の平均的なスピードで読んでいることになります。
何秒で読み終えることができるか、ストップウォッチで計測してみてください。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時、何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ。
速読とは3つのスキルを上げること
速読法とは次の3つの訓練をすることに他なりません。
- 読視野を広げる
つまり、一度にとらえる文字の数を多くする - 視点停留時間を短縮する
つまり「ひとつの読視野」の文字を速く理解する - 視点飛躍スピードを上げる
つまり「ひとつの読視野」を理解したら、素早く次の「ひとつの読視野」に視点を移動させる
速読法をマスターしたい人は、この3つの訓練を重ねてください。
だから学力が低い人には有効ではない
速読法の本質と、速読法の訓練を理解すると、「だから」学力が低い人には有効ではないこともわかります。
読視野を広げようとして、一度にとらえる文字の数を多くすると、一度に処理しなければならない情報量が多くなってしまいます。
学力が低いと、読視野がとらえた文字を1字ずつ吟味しなければなりません。
それでは、視点停留時間が長くなってしまいます。
視点停留時間が長くなってしまえば、読視野を広げた意味がなくなってしまいます。
学力が低い人は、まずは、速読法を意識せず、じっくり参考書の文章を読んでいきましょう。
しかし、2冊目の参考書からは、速読法で読んでいきましょう。
そうすれば、理論上は、いつまでも学力を高めていくことができます。
「この速読法」なら勉強に応用できる
先ほど解説した速読法は「正しい速読法」でした。
しかし、参考書などの本を速く読む方法は、「正しい速読法」だけではありません。
次の方法でも、本を速く読むことができます。
- まず目次をチェックする
- 前書きとあとがきを先にチェックする
- 見出しチェックする
- キーワードの抜き出す
- 要約を素早く把握する
これなら、学力が低いときから試すことができます。
参考書の「目次」「前書き」「あとがき」を先にチェックすると、これから読み込もうとしている文章の全体像を頭のなかに入れることができます。
例えば、いきなり、日本国憲法の条文について学び始めても、頭に入ってこないでしょう。
しかし日本国憲法を学ぶ意義や日本国憲法が成立した過程を把握しておけば、なぜ日本国憲法に103条が記載されているのかが理解しやすくなります。
また、教科書や参考書の著者は、重要なことを見出しにしたり、キーワードを太字にしたりします。
先に見出しや太字を読むことでも、本の全体像が見えてきます。
教科書や参考書は、「この著者は、要するに何を言いたいのか」と考えながら読み進めましょう。
それが要約する力を養います。
要約は、長い文章を短くすることなので、速読につながります。
まとめ~「しっかり読む」から「速読」に進化させよう
学力を上げるには、速読法が欠かせませんが、学力が低い段階から速読法を使ってしまうと、恐らく勉強が嫌いになってしまうでしょう。
まずは、教科書や参考書をじっくりしっかり読み込み、勉強の本質を理解して、学ぶことの楽しさを実感してください。
学力が上がると、ある時点で「参考書の著者がいいたいことがわかる」と思えるようになります。
速読法は、このころから始めてください。
参考書の著者のいいたいことがわかったら、もう著者の説明を読む必要はありません。
ところが、レベルの高い参考書に移行すると、再び、著書のいっていることがわからなくなります。
そのときはまた、速読法を封印して、じっくりしっかり読むようにしてください。
速読法は、しっかり読むことの進化形であると覚えておいてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。