内閣府は認定こども園(以下、こども園)について、幼稚園と保育所の両方のよさをあわせ持っている施設、と説明しています。
そのように聞くと、小学校に入る前の子供を持つ保護者は、俄然、こども園を利用したくなるでしょう。
こども園の概要を、幼稚園・保育所と比べながら解説します。
道内にもたくさんのこども園があるので、実際に行われている保育と教育を紹介します。
幼稚園・保育所とは
まずは幼稚園と保育所について解説します。
先に幼稚園と保育所を知っておいたほうが、こども園をしっかり理解できるでしょう。
管轄する省と先生が違う
幼稚園と保育所は、法律上はまったく別の施設です。
幼稚園は教育施設で、文部科学省の管轄になります。
幼稚園の先生は幼稚園教諭免許状を持っています。
幼稚園を規定する法律は学校教育法です。
保育所は児童福祉施設で、厚生労働省の管轄になります。
保育所の先生は保育士資格証明書を持っています。
「教諭」ではないので、厳密には先生ではありませんが、保育所でも「先生」と呼ばれています。
保育所を規定する法律は児童福祉法です。
こども園を開くには、幼稚園または保育所が都道府県から認定を受ける必要があります。
なお、こども園の仕組みができたあとも、依然として幼稚園と保育所は存在し続けています。
目的と保育時間と対象年齢が違う
幼稚園の目的は、幼児を保育して、心身の発達を助長する環境を与えること、となっています。
保育所の目的は、保護者の委託を受けて子供を保育することです。
幼稚園は子供の教育のために存在し、保育所は保護者の保育を代行するために存在している、と読むことができます。
ただ、幼稚園にも保護者の保育の代行の意味合いもありますし、保育所でも教育的な活動をしているところもあります。
保育時間は、幼稚園は9時~14時の間の4時間ほどです。
保育所は7時半~18時の間の8時間ほどです。
幼稚園は教育目的の施設なので、小さな子供が飽きずに学ぶことができる4時間になっていて、保育所は働く親のために存在するので、親の労働時間に合わせて8時間ほどになっています。
幼稚園は3歳になった春から小学校入学前までの幼児が入園できます。
保育所は0歳から小学校入学前までの乳児と幼児が入所できます。
保育が欠けているかどうか
幼稚園は教育施設なので、子供が3歳になれば、保護者が働いていても、働いていなくても入園することができます。
保育所は保護者の保育の代行をする施設なので、両親が両方とも働いていたり、病気をしていたりしていないと、入所できません。
そのような家庭のことを「保育に欠ける事情のある家庭」といいます。
保育所によっては、両親がともにフルタイム労働者だと入所しやすく、両親のどちらかがパートタイムだと入所が後回しになることもあります。
こども園の概要
幼稚園と保育所の基礎知識を押さえたところで、この2つをドッキングさせたこども園についてみていきましょう。
矛盾を解消する施設
こども園は、小さな子供を見守る施設が2つ存在することの矛盾を解消する施設、と考えることができます。
こども園がなかったころは、両親がともにフルタイムで働いていれば、いくら「幼稚園教育を受けさせたい」と思っても、幼稚園は4時間くらいしか預かってくれないので、保育所に入れるしかありませんでした。
逆に、両親の片方が仕事をしているわけでもなく、病気をしているわけでもないものの、なんらかの事情があって子供を8時間預けたい場合でも、保育所は預かってくれません。
その場合、仕方なく幼稚園に入れるしかありません。
幼稚園も保育所も「使いにくさ」があります。
また、幼稚園は教育施設、保育所は保護者の保育の代行、とわけられていても、実際は幼稚園にも保育所の要素があり、保育所にも幼稚園の要素があります。
これは、幼い子供の相手をしているので当然のことでしょう。
子供たちに「これは幼児教育」「こっちは保育」といってもわかりません。
それでも幼児教育と保育を厳格にわけてきたのは、文部科学省と厚生労働省が「縄張り争い」をしていたから、と指摘する専門家もいます。
幼稚園と保育所のよい機能を備えた施設があれば、それが国民にとって最もよい施設となります。
こども園の誕生は「ものすごく当たり前のこと」といえます。
こども園の2つの使命
こども園には、次の2つの役割があります。
保護者が働いていても働いていなくても子供を受け入れて、保育しながら教育します。
子供をこども園に通園させていない世帯を含めて、地域のすべての子育て世帯を対象に、子育ての不安に対する相談活動をしたり、親子の集いの場を提供したりします。
0歳から小学校入学前までの子供が入園できる
こども園に入園できるのは、0歳から小学校入学前の子供です。
「幼保連携型」「幼稚園型」「保育所型」「地方裁量型」
こども園は、幼稚園がこども園に転換したり、保育所がこども園に転換したりして開設しています。
そのような「出自」の違いによって、こども園には「幼保連携型」「幼稚園型」「保育所型」「地方裁量型」の4タイプがあります。
「幼保連携型」は、最も典型的なこども園で、幼稚園と保育所の機能を均等に取り入れています。
「幼稚園型」は、幼稚園色が濃いこども園で、認可幼稚園が転換したタイプです。
保育機能が充実した幼稚園、という位置づけです。
「保育所型」は、認可保育所が転換したこども園です。
幼児教育が充実した保育所、という位置づけです。
「地方裁量型」は、認可されていなかった幼児教育施設や保育施設が、こども園制度ができたことでこども園に転換したタイプです。
幼保連携型のこども園の先生は、「保育教諭」という資格を持っていなければなりません。
保育教諭は、幼稚園用の幼稚園教諭免許状と保育所用の保育士資格証明書の両方の資格をあわせたような資格です。
幼保連携型以外のこども園の先生は、幼稚園教諭免許状と保育士資格証明書の両方を持っていることが「望ましい」とされています。
ただし、3歳未満の子供を扱うことができるのは、「こども園であっても」保育士資格証明書を持っている先生だけです。
教育について
保育所単独では、保育所側は教育について意識する必要はありませんでしたが、こども園では教育を提供しなければなりません。
そこで、こども園の3歳以上の子供には、学級を編成し1日4時間程度の教育を行わなければなりません。
こども園では、小学校教育に円滑に接続することを目指します。
入園手続きと1、2、3号認定
子供をこども園に入園させる方法は、こども園に直接申し込む場合と、市区町村の認定を受ける場合の2通りがあります。
1号認定の子供がこども園に入る場合は、こども園に直接申し込みます。
2、3号認定の子供がこども園に入る場合は、市区町村の「保育の必要性」認定を受ける必要あります。
1号認定とは、教育標準時間を受ける満3歳以上の子供です。
教育標準時間とは「幼稚園での4時間の教育」のことです。
1号認定の子供は、こども園と幼稚園に入ることができます。
3歳以上の子供で、保護者が保育を必要とする事由に該当しないと1号認定になります。
保育を必要とする事由に該当すると、2号または3号認定になります。
2号認定とは、保育標準時間、または保育短時間を受ける満3歳以上の子供です。
保育標準時間は11時間保育のことで、保育短時間は8時間保育のことです。
2号認定の子供は、こども園と保育所に入ることができます。
3号認定とは、保育標準時間、または保育短時間を受ける満3歳未満の子供です。
3号認定の子供は、こども園と保育所に入ることができます。
さらに地域型保育事業を受けることができます。
地域型保育事業とは、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業などのことです。
札幌のこども園の様子
それでは、こども園がどのように運営され、子供たちがどのようにすごしているのか、具体的にみていきましょう。
ここでは、札幌中央区のあるこども園を紹介します。
子供は65人、利用時間はまちまち
このこども園には65人の子供がいます。
その内訳は次のとおりです。
3歳3人、4歳1人、5歳3人
0歳6人、1歳9人、2歳11人、3歳11人、4歳11人、5歳10人
職員は23人で、内訳は園長1人、主任・主幹2人、保育士16人、栄養士1人、調理師など2人、用務1人です。
利用時間は、1号認定の子供は9~13時までです。
2、3号認定の子供は、保育標準時間の対象の子供は7~18時、保育短時間の対象の子供は9~17時です。
同じこども園のなかでも、早く通園する子供、遅く通園する子供、早く帰る子供、遅く帰る子供がいることがわかります。
1日のスケジュール
子供によって利用時間が異なるので、1日のすごし方も子供によってかなり異なります。
1号認定の子供と2号認定の子供 (いずれも3歳以上) | 3号認定の子供(0、1、2歳) | ||
---|---|---|---|
7時 | 2号認定の保育標準時間の子供が登園、自由あそび | 7時 | 保育標準時間の子供が登園、自由あそび |
9時 | 1号認定の子供と2号認定の保育短時間の子供が登園、クラス別の保育 | 9時 | 保育短時間の子供が登園、クラス別の保育、0歳児は睡眠、1、2歳児はおやつ |
10時 | 0歳児は離乳食、1、2歳児はクラス別保育 | ||
11時 | 食事 | 11時 | 1、2歳児は食事 |
12時 | 自由あそび | 12時 | あそびのあと、睡眠 |
13時 | 1号認定の子供が帰宅、2号認定の子供は睡眠 | 14時 | 0歳児は離乳食 |
15時 | おやつ、自由あそび | 15時 | 1、2歳児はおやつ、あそび、または睡眠 |
17時 | 2号認定の保育短時間の子供が帰宅、自由あそび | 17時 | 保育短時間の子供が帰宅 |
18時 | 2号認定の保育標準時間の子供が帰宅、延長保育、おやつ | 18時 | 保育標準時間の子供が帰宅、延長保育、おやつ |
19時 | 閉園 | 19時 | 閉園 |
先生たちは大変そうだが、利便性は高そう
このスケジュールに目を通すと「目まぐるしい」という印象を持つのではないでしょうか。
先生たちスタッフは段取りに手間がかかるでしょう。
しかしその分、保護者はこども園を、幼稚園的に使ったり、保育所的に使ったりすることができるので利便性は高まっているはずです。
保護者のなかには、0~2歳までは保育所に入れて3歳になったら幼稚園に入れる人もいます。
それは手間がかかりますし、子供は「環境の激変」に耐えなければなりません。
こども園なら、その心配はありません。
また、小学校にあがってすぐのころは、幼稚園出身グループと保育所出身グループにわかれるものですが、こども園であればそのような区分けがなくなります。
まとめ~道半ばだが大きな一歩
こども園は2006年に誕生しました。
誕生から10年以上経過しているわけですが、それでもまだ「幼稚園の名称がこども園に変わったのかと思っていた」といった声が聞かれます。
認知度が高まっているとはいえないでしょう。
日本の子育て支援や幼児教育や幼児保育の仕組みは、残念ながらまだ問題が多く残っています。
こども園に加えて、2019年10月からは幼保無償化も始まりましたが、それでも若い夫婦が「これでようやく安心して子供を生み、育てられる」と言えるほどの内容にはなっていません。
ただ、こども園は大きな一歩といえます。
この一歩がきっかけとなって、二歩目三歩目が生まれることを期待したいですね。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。