よく書店で目にする「新学習指導要領対応テキスト」の文字。
参考書の表紙をよく見ると見つけることが出来ます。
学習指導要領とはおよそ10年ごとに改定されるいわゆる学習のガイドラインです。
文部科学省が発行しておりホームページからPDFをダウンロードする他、書店などで取り寄せる事が出来ます。
本記事ではもう少し詳しく学習指導要領について掘り下げます。
学習指導要領とは何か
学習指導要領は主に学校の教員が使用する授業の指南書のようなものです。
現行のものは平成30年に改定されており、幼稚園では既に旧要領から完全移行されています(学習指導要領は改定時の移行期間を経たのち、全面実施がなされます)。
小学校は令和2年から、中学校は令和3年から、高等学校は令和4年から全面実施がなされる予定です。
幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校用に作成され、教員は学習指導要領の内容に沿って授業を行います。
一つ留意していただきたい点は「授業の方法までは記載されていない」という事です。
あくまでも学習指導要領には教えるべき内容のみが記載されているだけに過ぎず、どう教えるのか?どのような教材を使うのか?については授業を行う教員に委ねられています。
学習指導要領が改定される理由は「時代の変化に合わせる為」です。
分かりやすい例だと「ゆとり教育」が挙げられます。
以前の「知識詰め込み型教育」に対する批判として生まれたゆとり教育は学習内容の大幅な削減が行われ、教科書も薄くなりました。
その後、脱ゆとり教育が提唱され詰め込み教育でもゆとり教育でもない教育が推進されました。
ゆとり教育以降は知識のみではなく判断力や思考力を重視して作られています。
新学習指導要領で子どもに身に着けさせたい能力
ここ数十年で文部科学省が重視している項目は「生きる力の育成」です。
平成20年告示の学習指導要領はこの「生きる力」をどのように育成するのかについて改定されています。
平成20年告示の学習指導要領では「思考力・判断力・表現力の育成」という文言が学習指導要領に盛り込まれました。
「思考力・判断力・表現力」については後述します。
そして平成29年告示の学習指導要領ではこの「思考力・判断力・表現力」の育成に向けた授業づくりを行うこととしました。
新学習指導要領の目玉とも言える「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が記載され、子ども主体の授業づくりを行うこととされました。
思考力・判断力・表現力とは学校の授業を通じて身に付けるべきとされる能力で、実際の社会で活用することの出来るものです。
例えば英語でコミュニケーションを行うと仮定しましょう。
相手の伝えたいことは何かを考え(思考力)、どのように返事を行う事が最適なのかを判断し(判断力)、学んだ英語を駆使して言葉を発する(表現力)のように、コミュニケーションを行う一連の流れで必要とされる能力です。
私は英語教育を専攻しているので英語の一例を挙げましたが、数学や社会のような他の教科でも扱う教材は違えど本質的には同様です。
また、新学習指導要領を語るにあたって道徳教育や外国語教育についても触れなければなりません。
実は平成29年の全面改訂を待たずして平成27年に学習指導要領は一部改定されています。
平成27年の一部改定時に盛り込まれたのは道徳教育の充実です。
今まで「道徳の時間」として行われていた道徳教育が「特別の教科・道徳」として行われるようになりました。
単なる活動ではなく教科として道徳教育が行われるようになったという事です。
教科化した事で様々な変化がありました。
教科とその他の活動の違いは大きく分けて「教科書」と「通知表の評価」の有無が挙げられます。
道徳が教科となった事で教科書が制定され、通知表に評価が記載されるようになりました。
従来、道徳の時間では「心のノート」という副教材が配布されていました。
道徳が教科科したことで文部科学省の検定を経た教科書を各教育委員会で選択しなければならないようになりました。
筆者の出身地である大阪市全域の公立小学校では日本文教出版社の「いきるちから」が採択されました。
通知表の評価に関しては特別に「数値ではなく記述式で行う」事になっています。
これは道徳的な価値観を数値で測ることはおかしいという文部科学省の判断によって決められたものです。
例えば「話し合いを通じて相手の意見を踏まえつつ自分の意見も伝える能力が特に身についた」等という風に通知表に書き込まれるといった具合です。
道徳的な価値観に優劣は無い事が強く示されています。
外国語教育の観点から新学習指導要領を語ることも忘れてはいけません。
平成30年公示の新学習指導要領では急速に広がっているグローバル化に対応するために、外国語教育が重要視されています。
これまで小学校高学年で行われていた「外国語活動」は中学年から実施されるようになり、更に高学年では今までの外国語活動に代わり、教科として「外国語」の授業が実施されるようになります。
なお外国語と記載していますが、英語と読み替えていただいて問題ありません。
このことについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
中学年で実施される「外国語活動」は教科として行われるものではなく、あくまでも活動です。
外国語に慣れ親しむためのアクティビティを多く取り入れて主に「聞くこと・話すこと」を身に付けるための内容となっています。
高学年では「外国語科」として外国語活動の内容に加え「読むこと・書くこと」も指導内容に加わります。
しかし基本的には外国語や異文化に慣れ親しみコミュニケーションを行おうとする意欲の育成のために行われるものです。
従来の文法・翻訳法だけでは対応できないコミュニケーション能力を育成することが今回の学習指導要領が目指す教育です。
余談ですが、小学校に限らず外国語教育は変わりつつあります。
具体的には従来の読み書き・文法を主としてきた授業から、ディベートやプレゼンテーションなどアウトプットを中心においた授業へと変化しています。
「大量の知識を持っている」事から「外国語を実際に使うことが出来る」へと社会の要請が変化している事を踏まえたものです。
アクティブ・ラーニングの理念を通じて子どもに「世界へ羽ばたく力」を身に付ける事が英語教員には求められています。
新学習指導要領の改定スケジュール
学習指導要領の改定スケジュールについては先述にて少し触れましたが、本項ではより具体的に示します。
学習指導要領が変わるという事は教育内容も代わりますので非常に重要なポイントとなります。
小学校では令和2年から新学習指導要領が全面実施されます。
令和元年現在は移行期間とされており、基本的には新学習指導要領に沿った内容を指導することとされています。
中学校では令和3年から新学習指導要領が全面実施されます。
「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて各教科で授業改革が行われる事が予想されます。
具体的には実験やプレゼンテーションなどの体験活動やディベート等のコミュニケーション主体の授業が展開されるのではないかと私は予想しています。
根拠は「アクティブ・ラーニング」の観点からです。
子どもが強制されること無く、自然に知的好奇心を沸き立たせることの出来る授業づくりが大きく叫ばれている為です。
高等学校は少し複雑で令和4年より年次進行で実施とされています。
令和4年の高校1年生から新学習指導要領に沿った授業が行われるという事です。
つまり令和4年の時点で高校2年生、高校3年生の子どもは旧学習指導要領に沿った授業が行われる可能性があります。
令和元年〜令和4年の間は新学習指導要領への移行期間ですので、新旧どちらで指導するのかは各学校の教員に委ねられます。
とは言え実際は完全移行に備えて、新学習指導要領に準拠した授業が行われる学校がほとんどでしょう。
移行期間の授業に関しては地域によって異なるのでお住まいの教育委員会に尋ねて下さい。
新学習指導要領の用語解説
最後になりますが、新学習指導要領に散りばめられている語句の中でも、本記事で用いた用語とその考え方について記載します。
ゆとり教育
ゆとり教育は昭和52年公示の学習指導要領に始めてその文言が登場しました(厳密には「ゆとりのある、しかも充実した学校生活が遅れるようにするための時間を設ける」とされている)。
その後平成10年度の学習指導要領でも登場しています。
これらの学習指導要領の下で教育を受けた者は「ゆとり世代」と呼ばれています。
昭和52年公示版と平成10年公示版のどちらを「ゆとり教育」と呼ぶのかは意見が別れますが、概ね1980年代からおよそ20年ほどの期間を「ゆとり世代」とする場合が多いようです。
アクティブ・ラーニング
アクティブ・ラーニングとは「子ども主体の授業」を指す場合が多く、子どもがより活動的に学習に取り組むような授業づくりを目的として言われ始めた言葉です。
ただし、アクティブ・ラーニングという言葉だけが先走った結果、本質を理解されないまま教育業界に浸透しました。
そのため後述の「主体的・対話的で深い学び」という文言と共に定義が定まりました。
主体的・対話的で深い学び
平成30年公示の学習指導要領で始めて登場した新学習指導要領のキーワードです。
先述のアクティブ・ラーニングをより具体的にしたもので、つまり「アクティブ・ラーニングとは何か?」を示したものです。
子どもが主体的に学習に向かうことの出来る、対話を通じて学びを深めるといった解釈で問題ありません。
思考力・判断力・表現力
読んで字の如く考える力、判断する力、伝える力の事ですが、学習指導要領でよく目にする語句なのでご紹介します。
思考力は主に多角的な目線で物事を捉えられるように、判断力は適切な判断を下せるように、表現力は誤解なくきちんと伝えられるように設定されています。
特別の教科・道徳
以前の道徳教育は教科ではなく通知表での評価もありませんでした。
いじめや犯罪の防止の観点からも道徳教育の重要性が議論されてきました。
今回の道徳教育の教科化では、全国一律的に道徳教育を行うことに重きが置かれており決して道徳の大切さを「分からせる」ために教科化したのではありません。
外国語活動
旧学習指導要領下では小学校高学年にて行われてきました。
新学習指導要領では外国語活動を小学校中学年で行うこととしています。
教科書も評価もありませんが子どもにとって外国語との馴れ初めとなる場合がほとんどであるため、外国語に慣れ親しむための非常に重要な役割を担っています。
外国語科
教科として行われる外国語の授業で教科書や評価があります。
小学校高学年では新たに外国語科が設定されましたが、英語を満足に教えられる小学校教員は少ないので中学校の英語教師との連携が重要視されます。
まとめ
平成30年公示の新学習指導要領では新たに「主体的・対話的で深い学び」を実現することを目標としています。
更に小学校では外国語教育が一層強化され、また道徳教育も徹底されるため益々加速してゆくグローバル化に対応した教育が展開されます。
日本から世界へ羽ばたく人材の育成に向けて、また国内でも世界から押し寄せる外国人に対応できる日本人の育成を目指しています。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。