文部科学省が、子供たちへのキャリア教育の重要性を訴えています。
キャリア教育とは、社会的自立と職業的自立を果たすために必要な能力と態度を育てることで、その目標は子供たちに「働き続けたい」と思ってもらうことです。
文部科学省は学校を統括する役所なので、教師に向かって、キャリア教育を充実させるよう指示しているわけですが、熱心に取り組んでいない教師があることを問題視しています。
子供が働く意義を認識することはとても重要なので、保護者も独自に我が子にキャリア教育をしてみてください。
キャリア教育に取り組んでいない教師がいる?
文部科学省は「キャリア教育とは何か 」という冊子のなかで、中央教育審議会という組織の次のような指摘を引用しています。
キャリア教育は「新しい教育活動を指すものではない」としてきたことにより、従来の教育活動のままでよいと誤解されたり、「体験活動が重要」という側面のみをとらえて、職場体験活動の実施をもってキャリア教育を行ったものとみなしたりする傾向が指摘されるなど、教員の受け止め方や実践の内容・水準にはばらつきがある。
キャリア教育の本来の理念に立ち返った理解を共有していくことが重要である。
(一部要約)
かなり痛烈に、教師にダメ出ししています。
中央教育審議会は文部科学省の教育行政に意見する組織なので、これは文部科学省に「もっと学校と教師にキャリア教育をさせなさい」と言っているようなものです。
しかし、これには違和感を持つ人もいるのではないでしょうか。
キャリア教育をごく単純に理解すると「子供たちに仕事や労働を好きになってもらうこと」となります。
仕事に関する省庁は、経済産業省のはずです。
労働であれば厚生労働省の管轄です。
文部科学省は教育や勉強や研究に関する役所なので、仕事と労働に口を出すのは「お門違い」と感じる人もいるでしょう。
もちろん、その理解は間違っていないでしょう。
学校や教師も、自分たちの本来の仕事は子供たちに知識と教養と情報と生きる知恵を授けることだと認識しているはずです。
ところが、現代の日本は、そのような悠長なことをいっていられる状況ではありません。
若者の職業意識の低下が大きな問題になっています。
若者の職業意識が低下している
この記事では、保護者は「子供には将来、しっかりした職に就いてもらいたい」「できれば正社員として働いてほしい」「一生懸命働いて稼いでもらいたい」と考えているものとして考察しています。
そういった保護者からすると、自分の子供が将来、フリーターやニートになることは本意ではないでしょう。
フリーターとニートについて、厚生労働省は次のように定義しています。
・フリーター:パートまたはアルバイトで働いている人(正社員でない人)
・ニート:仕事をせずパートまたはアルバイトの仕事を探している人(病気やけがの人も含む)
フリーターとニートのうち、15~34歳の人数は2003年の217万人をピークに減少傾向にありましたが、2009年に上昇に転じて178万人になりました。
働いていない若者ニートと、働いていても質の高い労働に就いているとはいえない若者フリーターが、およそ200万人もいるわけです。
もちろんこのなかには、病気やけがで正社員として働けない人もいます。
また、今は自分探しの途中であり、いつかしっかりした仕事を始めたいと思っている人もいるでしょう。
その一方で、自分探しという言い訳で働いていない人もいます。
厚生労働省がニートになっている理由を尋ねたところ次のような結果になりました。
1位「病気・けがのため」28.9%
2位「学校以外で進学や資格取得の勉強をしている」11.8%
3位「知識と能力に自信がない」10.4%
4位「仕事を探したがみつからなかった」7.6%
5位「希望する仕事がありそうにない」6.9%
6位「急いで仕事に就く必要がない」6.5%
病気やけが、資格のための勉強は、仕事をしていなくてもやむを得ないと考えることができます。
しかし「知識と能力に自信がない」「希望する仕事がありそうにない」「急いで仕事に就く必要がない」という理由については、職業意識が低いと言わざるを得ません。
勤労は日本国憲法で定められた国民の義務なので、職業意識が低いことで働けない状態は、義務を果たしていないことになります。
若い人の職業意識を高めるには、学校に通っている子供のうちからキャリア教育をしていく必要があります。
それで文部科学省が学校や教師に対し、「子供たちにキャリア教育をしなさい」と指示しているわけです。
保護者も困るはず
保護者も自分の子供がニートやフリーターになったら困るはずです。
保護者自身が元気で働いてお金を稼ぐことができているうちは、ニートやフリーターの子供を養うことができますが、高齢になったり病気になったりして働けなくなると、自分も子供も収入の道が途絶えてしまいます。
そのため保護者も、子供のキャリア教育の重要性を真剣に検討したほうがよいのです。
どのような人がニートになるのか
キャリア教育の内容をみる前に、もうひとつ確認しておきたいことがあります。
なぜ子供はニートになってしまうのか、どのような人がニートになりやすいのか、についてみていきましょう。
厚生労働省の「ニートの状態にある若年者の実態および支援策に関する調査研究報告書 」によると、ニートになっている人には次のような特徴があります。
・ニートの人の出身家庭は、裕福な家庭もあれば、苦しい家庭もある
・高校、大学、短大、専門学校で中退している人が多い
・高校、大学、短大、専門学校で1カ月以上休んだことがある人が多い
・不登校を経験した人が多い
・仕事をした経験がある人は多いが、業務内容は熟練を要しないアルバイトが多い
・1週間未満しか働かなかった経験を持っている人が多い
・学校で、いじめ、ひきこもり、精神科の受診を経験した人が多い
・対面コミュニケーションが苦手な人が多い
・生きていくことへの欲求が希薄な人が多い
やはり学校と教師の力が必要
上記のニートになっている人の特徴をみると、学校時代でのつまずきがニートにつながりやすいことがわかります。
このことからも、学校と教師にもニート対策やフリーター対策に関わってもらったほうがよいことがわかります。
やはり、キャリア教育の担い手は学校と教師であったほうがよい、といえそうです。
国はキャリア教育の責務を学校と教師に負わせるために、2006年に教育基本法を改正し、その第2条第2号に「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと」と定めました。
つまり、キャリア教育は学校と教師の「本来業務」です。
教師は子供たちに勉強を教えるのと同じ熱意をもって、キャリア教育をしなければなりません。
そして保護者も、もし子供が通っている学校で充実したキャリア教育が期待できなければ、自身で検討したほうがよいでしょう。
そもそも「きちんと仕事をする大人になりなさい」と教えるのは保護者の役目だからです。
どのようにキャリア教育を進めるべきか
では学校はどのようにキャリア教育を進めていくべきなのでしょうか。
文部科学省は「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み 」をつくり、小学校、中学校、高校でのキャリア教育の見本を示しています。
そのうち、高校が取り組むべきキャリア教育についてみていきましょう。
少し長いのですが、とても重要な資料なので全文を転載しておきます。
ぜひ保護者の方も目を通してみてください。
職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)、高校分
職業的(進路)発達の段階 | 現実的探求・試行と社会的移行準備の時期 ・自己理解の深化と自己受容 ・選択基準としての職業観 ・勤労観の確立 ・将来設計の立案と社会的移行の準備 ・進路の現実吟味と試行的参加 |
人間関係形成能力 | ・自己の職業的な能力・適性を理解し、それを受け入れて伸ばそうとする。 ・他者の価値観や個性のユニークさを理解し、それを受け入れる。 ・互いに支え合い分かり合える友人を得る。 ・自己の思いや意見を適切に伝え、他者の意思等を的確に理解する。 ・異年齢の人や異性等、多様な他者と、場に応じた適切なコミュニケーションを図る。 ・リーダー・フォロアーシップを発揮して、相手の能力を引き出し、チームワークを高める。 ・新しい環境や人間関係を生かす。 |
情報活用能力 | ・卒業後の進路や職業・産業の動向について、多面的・多角的に情報を集め検討する。 ・就職後の学習の機会や上級学校卒業時の就職等に関する情報を検索する。 ・職業生活における権利・義務や責任及び職業に就く手続き・方法などが分かる。 ・調べたことなどを自分の考えを交え、各種メディアを通して発表・発信する。 ・就業等の社会参加や上級学校での学習等に関する探索的・試行的な体験に取り組む。 ・社会規範やマナー等の必要性や意義を体験を通して理解し習得する。 ・多様な職業観・勤労観を理解し、職業・勤労に対する理解・認識を深める。 |
将来設計能力 | ・学校・社会において自分の果たすべき役割を自覚し、積極的に役割を果たす。 ・ライフステージに応じた個人的・社会的役割や責任を理解する。 ・将来設計に基づいて、今取り組むべき学習や活動を理解する。 ・生きがい・やりがいがあり自己を生かせる生き方や進路を現実的に考える。 ・職業についての総合的・現実的な理解に基づいて将来を設計し、進路計画を立案する。 ・将来設計、進路設計の見直し再検討を行い、その実現に取り組む。 |
意思決定能力 | ・選択の基準となる自分なりの価値観、職業観・勤労観を持つ。 ・多様な選択肢の中から、自己の意思と責任で当面の進路や学習を主体的に選択する。 ・進路希望を実現するための諸条件や課題を理解し、実現可能性についての検討をする。 ・進路希望の実現を目指して、課題を設定し、その解決に取り組む。 ・自分を生かし役割を果たしていく上でのさまざまな課題とその解決策について検討する。 ・理想と現実との葛藤経験等を通し、さまざまな困難を克服するスキルを身につける。 |
この表の左の欄から、キャリア教育は「人間関係」「情報活用」「将来設計」「意思決定」を養うことを目標としていることがわかります。
つまり「仕事をしないとお金がもらえず生活に困るので、とにかく働きなさい」といった、単純な教え方はしません。
表の右の欄の内容はすべて重要ですが、保護者が家庭ですべてを教えることはできないでしょう。
また、これは高校や高校教師の仕事でもあるので、保護者がすべて行わなくても心配いりません。
そこでこの表のなかから、家庭でもできそうなキャリア教育をピックアップしてみましょう。
家庭でキャリア教育1:リーダー・フォロアーシップを発揮して、相手の能力を引き出し、チームワークを高める
キャリア教育の人間関係形成能力の項目に「リーダー・フォロアーシップを発揮して、相手の能力を引き出し、チームワークを高める」とあります。
保護者は子供に、ときにリーダーになり、ときにフォロアーになるよう、教えてあげてください。
フォロアーとは「ついていく人、リーダーを支援する人」という意味です。
自分の力がクラスの活動で役に立つと判断できたら、勇気を出してリーダーに立候補するよう、子供にすすめてみてください。
さらに、友人のほうがリーダーに向いている場合は、リーダーを支援するフォロアーの役割を買って出るように教えてあげてください。
実際の仕事でも、仕事のリーダーは頻繁に入れ替わります。
管理職や社長になっても、自分ではなく部下にリーダーを任せたほうがうまくいくことがあります。
リーダー・フォロアーシップを学校時代に修得しておけば、仕事に役立ちます。
家庭でキャリア教育2:卒業後の進路や職業・産業の動向について、多面的・多角的に情報を集め検討する
キャリア教育の情報活用能力の項目に「卒業後の進路や職業・産業の動向について、多面的・多角的に情報を集め検討する」とあります。
子供にいきなり「仕事や労働やキャリアについて考えなさい」と指示しても、何もできないでしょう。
それはキャリアに関する情報の集め方を知らないからです。
スマホで知りたいことを検索できる子供でも、自分のキャリアに関わる情報を検索することは簡単ではありません。
保護者は、ハローワークの存在や、業界というものの存在、企業の種類などを丁寧に教えてあげて、その情報がどこにあるのか指摘してあげてください。
家庭でキャリア教育3:学校・社会おいて自分の果たすべき役割を自覚し、積極的に役割を果たす
キャリア教育の将来設計能力の項目に「学校・社会おいて自分の果たすべき役割を自覚し、積極的に役割を果たす」とあります。
保護者は、世の中の仕事には「したい仕事」と「させられる仕事」の2種類があり、できれば「したい仕事」に就いたほうがよいことを教えてあげてください。
そして「したい仕事」を一緒に探してあげてください。
「したい仕事」がみつかったら、その社会的意義を一緒に考えてみましょう。
家庭でキャリア教育4:理想と現実の葛藤経験等を通し、さまざまな困難を克服するスキルを身につける
キャリア教育の意思決定能力の項目に「理想と現実との葛藤経験等を通し、さまざまな困難を克服するスキルを身につける」とあります。
保護者は子供に、仕事を続けるなかで、どうしても「させられる仕事」をしなければならないことがある、と教えてあげてください。
そして、理想とする仕事に就けないことはよくあることであり、そのときは深く落ち込むかもしれないが、そこで腐ることなく2番目にやりたい仕事を探すようにして、そうすればそれが天職になることが珍しくないことを教えてあげてください。
さらに、理想の仕事に就くことができても、そこからスキルを磨いて向上していかないと満足できるキャリアを形成することはできない、ともアドバイスしてあげてください。
まとめ~キャリア形成と生きることは似ている
子供はいつか仕事をしなければなりません。
保護者は仕事のつらさを知っているので、「我が子も同じ目に遭うのか」と想像するとつらくなるでしょう。
しかし、子供に本物のキャリア教育を受けさせれば、つらさを乗り越える知恵が身につき、仕事にやりがいをみつけられるようになるでしょう。
キャリア形成は、生きることとほとんど同じです。
収入を得る道も、生きがいも、自己実現もキャリアのなかに詰まっています。
したがって、キャリア形成に失敗すると、収入を得る道も、生きがいも、自己実現も失ってしまうかもしれません。
それくらい、キャリア教育は重要な学びといえるでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。