スーパーグローバルハイスクール(以下、SGH)は、文部科学省が認定した、国際的に活躍できる人材「グローバル・リーダー」を育成する高校のことです。
普通の高校がSGHになることを希望し、文部科学省が許可をすれば、SGHは国のお金でハイレベルな授業を行うことができます。
その授業を受けた生徒は、グローバル・リーダーに必要な素養を身につけられるというわけです。
道内のSGHは、すでに認定期間が終了した高校も含め、私立3校、公立2校になります。
認定期間を終了した高校でも、グローバル・リーダー育成を継続しています。
この記事では、そもそもグローバル・リーダーとはどのような人のことをいうのか、SGHはどのような制度なのか、そして道内のSGHはどのような教育を提供しているのか、を紹介します。
グローバル・リーダーとは
グローバル・リーダーとは、世界中を飛び回って仕事やプロジェクトを牽引していく役割を担う人のことです。
グローバル・リーダーについて理解しておかないと、中学生が「SGHに入りたい」と思うことができないので、海外で働く意義について解説します。
世界一からの底辺
今の中学生には理解できないかもしれませんが、日本は1980年代に、世界で最も勢いのある国でした。
アメリカやヨーロッパの土地やビルディングや美術品や高級車などを買いあさり、多くの日本人が海外旅行に行って高級ホテルに泊まり、そこでも高級バッグを買って高級酒を飲んでいました。
日本車は世界中で飛ぶように売れ、世界の人々にとって日本製の家電を持つことはステータスでした。
これが世界を驚かせた、日本のバブル景気です。
ところが1990年代に入ると、バブル(泡)が割れてしまいました。
それから20年に渡って、日本経済は再び世界を驚かせます。
それだけの長期間、低迷し続けたのです。
日本で2番目に大きかった自動車メーカーの日産は「兆円」規模の赤字を抱え、外国人の社長を迎えて大改革してもらわなければなりませんでした。
その外国人社長は、日産の工場を次々閉鎖し、社員たちを次々解雇していきました。
ソニーとパナソニックとシャープを合わせた売上高は、韓国のサムスン1社の売上高を下回るようになりました。
シャープは倒産しかかって台湾の企業に救済されました。
東芝は事業に失敗して社内のほとんどのものを売却することになりました。
パソコン事業は見事に衰退しました。
携帯電話事業でも、アップルのスマホiPhoneが出現するとまったく太刀打ちできませんでした。
インターネットの世界でも、検索のグーグル、SNSのフェイスブックやツイッターやインスタグラム、ネット通販のアマゾンと、アメリカ企業が台頭しています。
AI(人工知能)や電気自動車や太陽光発電設備では、日本はまったく中国にかないません。
日本ではノーベル賞受賞者が多数誕生していますが、ほとんどの人は高齢です。
つまり、日本が絶好調だったころの研究成果が、ようやく最近になって評価され始めたのです。
日本経済は2013年ごろから持ち直しましたが、それでも20年に及ぶ低迷は大きな傷を残しました。
多くの日本人は自信を失っています。
それはそうでしょう。
かつて日本製品は、世界の人々が奪い合っていました。
しかし今の日本企業は、海外から仕事をもらうことでなんとか利益をあげている状況です。
少しぐらい潤っても不安で仕方ありません。
世界視点を持たなければならない
日本はかつて、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国でしたが、その座は中国に奪われました。
そしてインドにも抜かれるだろうとみている経済評論家もいます。
日本には、アメリカや中国のように、石油も広大な土地もありません。
人口も減っています。
そのなかで日本が世界のなかで埋没しないためには、世界のビジネスシーンで闘える人が必要なのです。
その人こそ、グローバル・リーダーです。
グローバル・リーダーは、アメリカ、中国、インド、アフリカといった将来有望な国に出ていき、ビジネスや国際貢献をします。
海外で発電所をつくったり、新幹線をつくったりするのもグローバル・リーダーの仕事です。
国連職員もグローバル・リーダーといえるでしょう。
世界各国で稼いで日本に利益をもたらすグローバル・リーダーもいますが、海外にとどまってその国のために働くグローバル・リーダーもいます。
日本人のグローバル・リーダーはいますが、まったく足りていません。
それは日本が安全で快適だからです。
多くの日本人は、海外旅行以外では海外に出たがりません。
そこで文部科学省はSGH制度をつくり、高校の力を借りてグローバル・リーダーを育成することにしたのです。
10代のうちからグローバル・リーダーになることを意識させれば「大学を卒業したら日本を飛び出したい」と考える人が増えるでしょう。
10代のうちから世界と接触すれば、外国人に臆せず海外で仕事ができるでしょう。
これがSGHをつくった目的です。
SGH制度とは
文部科学省はSGH制度の狙いについて次のように紹介しています。
SGH制度をさらに詳しくみていきましょう。
SGHになるには
高校がSGHになるには、高校自身が地元の知事を通して文部科学省に申請書を提出する必要があります。
申請する高校は、どのようにグローバル・リーダーを育成するのか提案しなければなりません。
申請書は、文部科学省のSGH企画評価会議が審査します。
それに合格すると、同省のSGH認定を受けることができます。
SGHの6つの取り組み
SGHに認定された高校は、次の6項目に取り組まなければなりません。
- 目指すグローバル人材像の設定
- 研究開発テーマの設定と実子
- グローバルなビジネス課題や社会課題の探求と考察
- 探求型学習と海外でのフィールドワークの実施
- 大学との連携
- 国際機関や企業との連携
生徒は文部科学省の予算で貴重な体験ができる
SGHはグローバル・リーダーを育成する教育を実施します。
その教育は特殊な内容になるのでお金がかかりますが、その予算は文部科学省が負担します。
これまでに道外のSGHが行った教育には次のようなものがあります。
- カンボジア研修:海外支援のあり方を学ぶ
- 広告代理店、博報堂への企業訪問:「正解のない問題に向かい合おう」をテーマにワークショップを実施
- イギリス研修:鉄道の歴史の研究、ローマ時代の出土品の研究、ハリーポッターのロケ地巡りなど
- JICA東京での探究活動発表
道内の5つのSGH
それでは道内の5つのSGHをみていきましょう。
校名とキャッチフレーズは次のとおりです。
「共鳴」と「創造」マインドを育む~世界に通用する18歳
北海道の産業課題を世界視点で捉え、解決に導くグローバル人材育成
Active Dialog~共生の実現へ
さっぽろ発「Think globally, act locally」を実践するグローバル人の育成
AKB Future Project「世界の明日を創る」
それぞれの高校の特徴を紹介します。
SGHのトップになった立命館慶祥高校
立命館慶祥高校は京都の立命館大の学校法人立命館が運営していて、校舎は江別市にあります。
SGHの認定期間は2015~2019年です。
立命館慶祥高校は、2018年に開かれたSGH全国高校生フォーラムにおいて、最高賞の文部科学大臣賞を受賞し、SGH123校の頂点に立ちました。
4人の生徒が「アイヌの伝統を知る~教育によるアイヌ文化の伝承活動」というテーマでプレゼンしました。
立命館慶祥高校でのSGH教育は、1年生が地域研究、2年生が海外文化研究、3年生が観光開発、国際社会、アジア学となっています。
観光開発の授業でサハリンやタイに行ったり、アジア学の授業でバンコクに行ったりします。
また2014年からは、アメリカの2大名門大学であるハーバード大とマサチューセッツ工科大への研修も行っています。
札幌日本大学高校
札幌日本大学高校は学校法人札幌日本大学学園が運営しています。
校舎は北広島市にあります。
SGHの認定期間は2015~2019年です。
SGH教育としては、北大から教員を招き異文化に関する講義を開いたり、語学力を磨くために英語論文を書いたりしています。
また、生徒に次の4つのテーマを与えて独自に探究させています。
- 北海道の身近な食生産と世界の食糧問題
- 北方領土をテーマとした領土問題の課題と解決
- 戦後七十年の歴史問題(近隣諸国との対話)
- 世界に羽ばたく北海道の観光産業の課題と未来
札幌聖心女子学院高校
札幌聖心女子学院高校は学校法人聖心女子学院が運営し、校舎は札幌市中央区にあります。
SGHの認定期間は2014~2018年でした。
SGH教育としては、「アイヌ民族との共生」「世界の移民と難民に関する問題」「自然との共生と資源とエネルギー」を取り上げました。
この学習のなかで国連などの国際機関を訪問したり、ペットボトルキャップ運動にボランティア参加したりしています。
市立札幌開成中等教育学校
市立札幌開成中等教育学校は、札幌市が開設している中高一貫校です。
札幌市東区にあります。
SGHの認定期間は2014~2018年でした。
SGH教育としては、次の3つのテーマで学習しました。
「【雪】雪がもたらす豊かさとは」
「【環境】様々な文化背景を持つ人々が共存する社会とは」
「【読書】知を身近に感じるための人のつながりとは」
開成中等教育学校はこうした研究を深めるために、小樽商大、ベトナムの高校、レンタルショップTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、北海道ガスなどと連携しました。
北海道登別明日中等教育学校
北海道登別明日中等教育学校は道立の中高一貫校で、登別市にあります。
SGHの認定期間は2014~2018年でした。
SGH教育としては、大学や農林水産省、JICAと連携した探求型学習を実施したり、語学研修や海外研修、外国人教員によるディベート演習などを行ったりしました。
生徒が北海道と世界の食糧問題を考察し、北海道農政部と農林水産省に提案したこともあります。
まとめ~北海道から一気に世界へ、の時代
これまで向上心が高い北海道民は、東京に出ることを考えました。
東京のほうが大きな仕事に携わることができるからです。
しかしこれから将来設計を立てる人は、道内のSGHで学び、大学を出て、世界に出ることも考えてください。
もしくは、SGHから海外の大学に行ってもいいでしょう。
「大きな仕事をしたい」「人と同じ生き方はしたくない」「イノベーションを起こしたい」と思ったら、世界に目をやってください。
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この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。